文通 〜「抒情的間奏曲」より


ーあぁ美しい五月の月
 芽という芽が萌え出たとき
 僕の心にも
 恋が萌え出たー。
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拝啓
最近は暖かい風が吹いてきました。それにつけても、僕の心を痛めていることが一つあります。それは、君の足がどんなに太ったことだろうか?ということです。
餅の食い過ぎで、なんてことは言わせないゾ。マ、どんなに太っても、桜島大根にはならないでね、大根足。(これは失礼。)

君の写真を見るといつもそう思うんだ。今度送ってくれる写真は、上半身だけにしてネ。そうでないと、僕、僕、・・・・・(泣いてると思うだろう。 ところが、笑いたいのをじっとこらえてるんだ。ククク・・・。ごめんね、そんなに泣かないでょ。)

そぅだ、君にプレゼントがあるんだ。年賀状も出さなかった、僕の罪をお許しください。
貧乏な僕からの、ささやかなプレゼントを受け取ってくれるネ。ありがとう、そんなに喜んでくれなくてもいいょ。泣いてまでして喜ぶ必要はないさ、さぁ笑って。

さぁ、送ったよ、”君に涙と微笑みを”!
ゴメンネ、僕にはこんなものしか、君に送ることができないんだ。

ところで、僕の所にたくさんの激励の手紙が届きました。本当にありがたいと思った。クラス仲間というものは、友人というものはいいなぁ、って。ほんと、心底思った。
さぁ、夜も更けてきた。少し眠くなってきちゃった。じゃ、君の手紙の夢を・・・・・。      
おやすみなさい。

拝復
素敵なプレゼントをありがとう。大事にしまっておきます。それから、これからの写真は全部上半身にしますから、ご心配なく。

でも、ショックだったわょ。いくらなんでも、私の足が桜島級の大根だなんて。守口漬けの方ょ。
(ウフフ)

激励の手紙、良かったですね。私にも少し分けてほしいわ。でも、男の人はいいわネ。その点、女同士の間では、どうしても友情というようなものは育たないの。どうしてかしら、利己主義からかしら、悲しいわ。男同士の友情、いいわネ、羨ましいわ。私も女でなく、男に生まれたかった。

でも、女と生まれたからには仕方ないわ。狭い世界で生きることにしました。

私、こんなことあなたに言っていいかどうかわからないけど、手紙だけじゃ物足りないというか、スッキリしない。私があなたに嘘を言っても、あなたが私に嘘を書いていて・・・、ごめんなさい。でも、同じ県内にいてお互いを見たことがないなんて、何となく変だと思うわ。それに、もうこれで三年目かしら。私、耐えられなくなったの。本当のことを、言おう言おうと思って。でも、手紙ではだめなの。会ってくださる?

あなたからの返事を待ちます。

 
とうとう私、告白するのね。今まで、貧乏な家庭だって偽ってきたことを。だって、あの方が貧乏で、私の家が裕福だと知ったら、町の有力者の娘だと知ったら、きっとあの方は私から去って行くわ。
私、味方がほしいの、心底からの。いま、お付き合いしている人達は、私とではなく、父の娘の私だわ。そんな薄っぺらの交際なんて嫌。本当のお友達がほしいの。

でも、あの方、何とおっしゃるかしら。素直に受け止めていただけるかしら。あぁ、心配だわ。でも、いいわ。これははっきりさせなければいけないことだから。
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拝啓
いつもの君らしくない手紙、少し心配になりすぐペンをとりました。何やら悩んでいるようですね。何に耐えられないのですか?是非話して欲しい。

実を言うと、この僕も君に重大なことを隠している。或いは、君にはそれ程重大ではないかもしれないけれど。僕にとっては、重大なことです。この三年間、僕はひたすらに隠し続けました。時折、良心の呵責に耐えられず、話してしまおうかとも思うのですが、どうしても手紙を破ってしまいました。

正直なところ、僕は、君に会うのが怖い。ゴメンネ。勿論、自分の秘密を知られることもありますが、他に大きな理由があります。

僕の君に抱いている、淡い初恋のような清々しい感情の灯りが、君に会うことによって、いや、僕の言葉でそれが壊れるような気がする。

君には、清い美しい感情を持ち続けていたい。だから、お互いの秘密を明かすことなく、会うこともなく、この関係を続けて行きたい、僕はそう願っています。
きっと僕は言う。そして、他の誰もと同じようにするだろう。僕の付き合っている、上流階級の極道者らと同じような言葉を吐き、又遊ぶだろう。いやだ、いやだ、俺はもう疲れた。もっと人間らしい感情を持ちたい。
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ーお前の胸にもたれていると、
  この世ならぬ歓びにおそわれる。
  だが、
  「あなたが好きなの。」と言われると
  はげしく僕は泣いてしまう。