エミコ

 
 親父のお気に入り 
 「嫁さんにしろ!」



違うんだよなあ、
ぜんぜん、違うよなあ。

やっぱ、いもうと、妹なんだよ。
だって、
どう考えても……


するめいか みたい……
噛めば噛むほど 味が出るって 感じ
それとも、多重人格者…?
小銭入れ、ってか?
重いんだけど、ないと困るんだ
持ってて当たり前、なんだよな

bokuを
ore に変えたのは、
紛れもなく、あいつ、だ。

boku を、 ぼくに変えたのも
ore を、 俺に変えたのも
やっぱり、あいつ、だ。

長い、なが〜い、
あいつとの付き合いは、くっついたり
離れたり…、のくりかえしだ。

バーチャルの世界に隠れていた俺を
リアルの世界に引き戻したのは、
やっぱり、あいつ、だ。

いつも、いっつも、
走馬灯みたいに、
同じところを、グルグル、ぐるぐる…

だれかが止めるまで…
だれかが声をかけるまで…

ちょっと手を伸ばせばいいのに
それをしなかった……

ぼくを boku に そして 
俺に変えられた……
なにを、みんな焦る?
親父は親会社とのこと、兄は転職のこと、そこに俺の休学問題。
申し訳ないです、言わない方が良かったのかも?
しかし、俺としては……

時間。
そう、空白の時間が欲しい。
煩わしいすべての事よりの解放! が、欲しい。
学校なんて、くそ喰らえ! だ。
授業なんて、受ける気にならない。
すべてに、嫌気がさした。

母は、“ひねくれた!”と、言う。
そして、子育ての苦労話をこぼす。
「せめて高校だけは、出てちょうだい!」
こぼせ、こぼせ! 俺だって、言いたいことは山ほどあるサ。
でも、口に出してしまえばそれだけのもの。
グッとこらえてこそのパワーだ。

[沈黙は金なり]

ああ、また旅に出たくなった。
が、だめ! バイトがある。休めない、今は。
店の稼ぎどきだ。
それにしても、今日は体中の関節が痛む。
腰が、(うず)く。

いやだ、いやだ! と思いつつ、今日も、煩わしい世界をノックする。

 社会 ━ いったい、なに?
会社 ━ いったい、なに?
人間 ━ いったい、なに?

ああ、もうやめてくれ! いい、いい。
俺は、人間が信じられないんじゃない。
絶望したとも言わない。
ただ俺の思うがごとくに、事が運ばない、それだけのこと。

「ナニサマのつもりだあ!」
わかってる、己を過信してるつもりはない。

俺は、だれにも、なにも、求めはしない。
望めばのぞむほど、絶望するだけだ。

それにしても、小説が書きたい。
考える時間、書く時間、少しの休息、そして推敲の時間が、欲しい。

それだけの理由での、休学。
高校なんて、くそ喰らえ! 本音では。
「退学じゃないから、いいジャン!」

貴重な、『今』 というときを、逃してたまるか!!

 
 けっして、あせるナ!
けっして、まんしんするナ!

おのれを、みつめろ。
みつめてみつめて、もっとみつめろ!
 


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あいつとの腐れ縁は、たしか・・体育館だったよなあ。
友人の部活動を待っている時に、[ テーマは、愛 ]を書き上げた。
変なタイトルだけど、面白いんじゃないかって自分では感じてた。
ゴーストの男に恋する女性の話だ。
恋人がゴーストになったのではなく、あくまでゴーストの男に恋してる。
観念的に描いたのだから、構わないんだ。

“ありえな〜い!”って言われそうだけど、いいんだ、いいんだ、これで。

はじめは車椅子の男に設定していたけど、陳腐なような気がしてやめた。TVドラマでやってそうだったし。
俺の頭の中にある、「愛」を描きたかったんだから。
まだ漠然としたものだけど、世間さまの「愛」とはひと味違うんだから。
だけど、postman に言われちゃった。

「日記なら、それでいいだろう。
だけど、詩として考えてるなら、一考すべきだな。
ゴーストたる彼を、どうして好きになったのかな? 
好きな彼がゴーストになってしまったというのなら、理解できるよ。
でも、それじゃ思い描く「愛」にならないんだろ? 
誰にも見せるつもりなんてない! って、言いたそうだな。

けどな、これから十年二十年と経っていくんだ。
その時にこの詩を見つけて読んだとしよう。
きっと、ぼくの言ってる意味がわかるよ。
だけれども、まさしくあれだな。
━ 恋に恋する年頃 ━そのものだな。
今この時は、現在しかないからね。”

なーに、それって。 
             詩、のつもり? 
                 なになに、 
踊れなくてもいい? 二人だけでいたい? 
       生命ちの息吹を感じて…… 
      キャハハハ…くすぐったい! 

とつぜんの嬌声。
ほんと、ビックリした。背中越しに覗き込んで、大笑いして。汗の匂いが、俺の鼻をついた。女の汗なんて初めての経験だ。何て言うか、悪くはない匂いだった。どう表現したらいいんだろう?少し柑橘系の匂いがあるような・・。
なんだってんだ、こいつぅ!失礼な奴だ!思わずノートを閉じた。そしてそいつの顔を見ると、見ると、見ると、うーむ、可愛いジャンか!こういうのを、屈託のない笑顔、って言うのかな?
少し丸めの団子っ鼻が、チャームポイントだな。けっこう好きだぜ、こういうの。

ねえねえ、ナニしてるの? 
だれか、待ってるの? 
なんて、名前? 
あたし emiko、よろしくね。 

これが、あいつとの腐れ縁の始まりだった。
 キューポラのある街」って映画だったよな、たしか。テレビで名作映画として、放送された。
すっげえ可愛いの、吉永小百合って。
親父なんか「女神さまみたいで、後光が射して見えたもんだ」って、言うもんな。だけど、何となく分かる気がするぜ。
サユリスト、なんて言葉が流行ったらしいぜ。

だからさ、その吉永小百合に、あいつ似てるんだよ。
もっとも、俺ひとりだけどな、それを言ってるのは。
みんな、「似てねえよ!」って言うけど。
そうかなあ、似てると思うんだけどなあ。

あいつ、バレーボールの部活をやってんだよ。
一年生なんだけど、エース候補らしいんだわ。
顧問に気に入られてて、部活終了後に特訓を受けてる。
まあな、そのせいで先輩達からいじめらしきことをされてるみたいだけど。
なんで知ってるかというと、俺の悪友たちもバレーボール部だからさ。

もっとも、男子と女子と、別々の部なんだけど。
男子の方は、肩身の狭い思いをしてる。
なにせまだ、対外試合で一度も勝ったことのないチームだもんな。

それに比べて女子の方は、名門チームとして名を馳せてる。
まっ、ちょっと斜陽ぎみだけど。
地区大会ではいいところまで行くんだけど、
ここ何年か県大会に出場できないでいるから。
で、あいつの登場だ。
もうひとりレシーブのうまい子がいて、ふたりして徹底的にしごかれてる。
来年は、ひょっとして県大会? って、噂だ。


 どんよりとした曇り空。今朝は、何だか気ずつない。
何をするでもなく、取りあえず外に出ることにした。
いわゆる、散歩ってやつをしてみることにした。
生まれてはじめて、と言っても、いいと思う。
仕事仕事に追われてる親父とはもちろん、お袋とも散歩なんて覚えがない。

もっとも、買い物のお供は多々あるけれど。小学生までは良かったよな。
お菓子目的で、たゞたゞついて行けばよかったんだから。
中学からだよ、中学。イヤだったよなぁ、もう。
荷物持ち専門だったし、女子に出会おうものなら、翌日の学校で……。

黒板(最近は緑色だど、やっぱ、黒板か?)に大きく書かれるんだよ。
他の奴が書かれた時なんかは、結構冷やかしたり囃し立てたりしたけれど、
自分がやられた時は腹が立つもんだ。
それ以来、冷やかすことは一切止めた。

「散歩ったって、どこ行けばいいんだ?」
そうなんだよな、どこに行こう? いつもと反対の、右に行ってみるか。
100m、いや200mかな? 歩いたら少し大きな通りに出た。
道に白線が引いてある。車道と歩道がべっこになってるんだ。
さすがに車がよく通る、当たり前かあ。

“トン、トン”
誰かが背中を叩いてきた。振り向くと、なんとまあ、
「何やってんの、こんな所で」と、あいつの声。
「えっ、ええ! お前こそなんだよ。
部活は、どうしたんだ!」と、すこし詰問調になっちまった。
目の前にスポーツ店の紙袋が差し出されて
「シューズ、買ってきたの。サボりじゃないよ。
先生の許可、貰ってるんだから!」と、膨れっ面してた。

俺の奢りで、マックに寄ることになった。
そう言えば、朝飯食べてなかったんだ、俺。
「早く戻らなくていいのか?」
「いいの!」
語気鋭く返事が返ってきた。

どうやら、また先輩たちからのいじめがあったみたいだな。
適当に聞き流せばいいものを、ムキになって反論したりなんかするから。
もうひとりの、ええっと誰だっけか、名前が思い出せないゃ、あの娘みたいに頷いてりゃいいのに。
まっ、この負けん気の強さが、アタッカーには必要だってことだろうさ。

「ねえねえ。あの人とはうまくいってるの?」
上目遣いに聞いてきた。まったくドキッとする。ときどき艶っぽいんだよ。
「ああ? あの人って、だれだ?」
「誰だって、とぼけないの! midori さんのことよ。行ってきたんでしょ、この間」
「フラレたよ、フラレましたよ。
ものの見事に、ね。と言うより、恋人がおみえになりましたあ」

「あきれたあ! 年上の女性でしょーに。そんなこと、考えてたの? 
小説のお勉強会だったんでしょ、あれって」
俺の肩をバンバン叩きやがって。痛いっつうの。

「冗談、ジョーダンだって。勉強になったよ、マジで。
目の見えないお年寄りがいてな、俺の詩をほめてくれた。
どんどん書きなさいって。
たくさん書けば書くほど、俺のスタイルが決まってくるんだってさ」

「ふーん、良かったね。たくさん、書きなさいかあ。
そうだょね、たくさん練習した方がいいよね。
“練習は嘘をつかない”って、言うモンね」

「それはそうと、kazuko さんとつきあうの?」
「な、なんだよ、藪からぼうに」
「あのひと、すっごい美人だもんね。それこそ、もういるんじゃないの? カレシ」
「ぶぁあーか! 関係ねえよ、そんなこと。彼女とは、おんなじ部活だってことだよ」
「なら、いいんだけどさあ」
「なんだよ、それ。どういう意味だよ」
なんだか小バカにされたような気がして、ムッとした。

「あのひととは、絶対だめだよ。合わないよ、ズウエッタイに」
「なんだよ、それって。なんで決め付ける?」
正直のところ、高嶺の花に感じてた。
当然のことながらカレシはいるだろうし、俺なんか相手にされないって思ってた。
部活の時に話をするだけでイイヤ、って思ってた。