[ 序 ]

思考、疑惑、裏切、憤り、妥協、決断、実行、反省

そんな過去の自分に決別して、全てのものを伝説的存在とする為
我が【 青春の囁き 】を、ここに書き綴る。

俺の青春は決して灰色だとは思わない。が、バラ色だとも思わない。
つまり、自分の青春を、それ程意識していなかったと言える。
しかしそんな俺に、ある日突然、春が訪れた。

その瞬間、俺は灰色の青春であったことを意識し、バラ色の青春で
あろうと願ったことはない。

人生を悲観視し、絶望視し、何物をも信用できずにいた。
無論、愛だの恋だの、そんなものにはまるで縁のない俺だった。

“愛とは、与えること”
信じられない言葉を、遂に書きとめたあの。
その日から、俺の人生が変転した。

くっきりと浮かぶ姿。黒い幕の前に、ざわめく観客を前に、ひたす
らに歌う若者が居た。世俗からかけ離れ、精一杯に歌う若者が。
彼女のうるむような瞳は、まさに沖に光る夜光虫だった。

そして口元より流れ出る声は、あゝなんと形容すべきか。この世の
何物にも変えがたきもの、そう!聞こえてくる、この曲。
さあ、聞け!

 高らかに!響け!天使の声ぞ。
 アヴィ・マリア!
 アヴィ・マリア!

 あなたを呼ぶ声。
 この川から、あの家から、その窓から。
 皆が待っている。
 さあ、あなたの美しい声で。
 アヴィ・マリア!

 よちよち歩きの幼子が、あなたを呼んでいる。
 あなたの声に魅かれて、
 アヴィ・マリア!
 早く聞かせて!早く見せて!
 あなたの声を、あなたの白く透き通る姿を。

 さあ、天使たちよ。
 この娘を運んでおくれ、
 この娘の魂を。
 この娘の体は、彼が引き受ける。 
 Dr.Schuveitzerが。
 
 あの川を渡り、あの屋根を越えて
 あの山を飛び越え
 あの雲に乗って。
 さあ、早く!早く!
 高らかに!鳴れ!響け!

 アヴィ・マリア! 
 アヴィ・マリア!
 あゝ、My Mother!
 My Mother!
 My Mom ...!
[ 口舌の人 ]

俺は神の存在を否定している。
しかしそこにも、人間を超越した何かを、想像している。
そしてそれを、自分だと言い聞かせることもある。

絶対という言葉を使うとすれば、そこには何ものものない。
自分さえも、居るのか居ないのかわからない。
即ち、自分について、とやかく考える必要がないのだ。
その対象物がないのだ。

他人は、俺を口舌の人と揶揄する。(他人=ひと)
そこに、侮蔑の色合いを感じている。
俺自身、そのことで悩んでいる。

しかし有言実行をと、願ってはいる。
実行せねばならぬととして、考えてはいる。
“実行なくば、死あり。”と、思い詰めてもいる。

小説を書きながら、人生の生の体験をしようとしている。
いや、現生活の体験を得ようとしているのだ。
ブルジョア的精神のせいかもしれない。

「それは迂闊であり、矛盾でもあった。
迂闊と知り矛盾と知りながら、依然ともがいている。」


あゝ、もうやめてくれ。
お願いだ!
俺が悪かった。
あゝ、月よ、月よ、もう消えてくれ。
俺が悪かった。

謝るよ、何でもするよ。
どんな償いでも。
ネェ、君。
君からも頼んでくれよ。
何でもするよ。
君に、仕えもするよ。
お願いだ、許してくれ!

あゝ、頼むから月よ、消えてくれ。
お願いだ、お願いだ!
そうか、こんなにまで言っても
お前は許してくれないのか!
チキショー!何だってんだ!

ちょっと触れただけじゃないか、
お前の唇にー
俺の唇が触れただけだ。
どうしてだ、
どうしてそれが悪いんだ!
俺はしたくなったんだ。
悪気はなかったんだ。

君がいけないんだ、
君が暗い道に入るから。
俺は君の後をついて来たんだ。
君の唇を盗もうなんて
そんなこと考えもしなかった。

ただ、君の後からついて行って
ただ、君を感じていただけなんだ。
それだけなんだ。
ナァ、頼むよ。
悪気はなかったんだ。
ひと言、言ってくれよ。
許す!って。

お願いだ!
悪気はなかったんだ。
分かったよ、分かったよ。
みんなの前で白状するよ。
君はそれが言いたいんだナ。

分かってるんだ。
俺はいつも考えるだけなんだ。
空想をして、それで楽しんで、
あゝ、悪い子だったョ。
何もできないくせに、
できるなんて思い込んで。
そして空想の中でそれをして。

あゝ、分かったよ、白状するよ。
みんなの前で、大声で。
お〜〜い、みんな、よく聞けよ!
俺はナ、今、キスをしたんだ。
無理矢理にだ。

あゝ、チキショー!
何だってんだ!
俺の意思でやったんだ。
文句あるか!
チキショー!
どうでもしろよ!
俺はやったんだから・・

━・━・━・━・━・━
なあに、あの子。」
何をわめいてるのかしら。
私に暴行を働いたなんて、冗談じゃないわ。
まったく失礼ね!

そう、そうね。
彼は、やったのよ。
とに角、彼はやったの。
それを知っているのは、この私、月だけよ。
[ 起きろよ、monster! ]

俺は、現在の道徳に少なからず不満をもっている。
道徳というか風潮と言うか、とに角現社会の矛盾に腹を立て、
嘆いている。
そして自分の信念[青年の社会]創立を夢見ている。

自由主義、共産主義、そんな世俗的なイデオからかけ離れ、
人間の根本的思想に立ち戻り、
矛盾のない社会の創立を夢見ている。

青年のみが持ち得る悪への対決心、人生への懐疑心、
美に対する賛辞、信頼から生まれる友情、
そして清純な恋、永遠に輝く愛。

そんな思いはいつしか反道徳的思想に変わった。
しかし、生活している俺には、
どうしても妥協せざるをえない部分がある。

そしてその結果、俺の心と体の乖離が始まった。

 反モラルの不徹底な奴ほど
 偽善者な者はいない。
 やることなすこと、みな食い違う。
 白と叫び、黒と扱う。  
 赤と叫び、青と扱う。
 まったく、腹立たしい奴だ。
 くたばれ、くたばれ!
 くたばっちまえ!
 残るのは
 モラリズムと、ノンモラリズム。
 サー、どっちが早くくたばるか!
 面白いゾ!面白いゾ!

自分自身を嘲り笑い、
何もかもが信じられなくなってしまった俺だった。

何もかもを放り出して、自由奔放に生存したいと願う俺だったが、
結局、生活という重苦しいカベを破ることはできなかった。

いや、生活と言う外的なものではなく、
自分自身の内的なものの筈だ。

その存在に気付きつつも、どうしても打ち破れない。
俺は、待った。

 サー、起きろモンスター、
 Sleeping Monster
サー、起きろモンスター、
 Sleeping Monster
 サー、起きろよ、
 早く起きるんだ。
 起きて、この平和な世界に
 お前の力を見せるんだ。
 みんなお前を恐がるぜ。
 面白いゾ!
 サー、起きろモンスター、
 Sleeping Monster
 俺はお前を待ってるぜ。
 だから早く起きるんだ。
 俺のこぼすくやし涙が、
 お前に、お前に、・・・
 早く起きろよモンスター
 そしてこの堕落した世界の
 文明なんか破壊するんだ。
 サー起きろよモンスター、
 早く起きるんだモンスター。
 俺はお前を待ってるぜ。
 みんなお前を恐がるぜ。
 面白いゾ!
 何をぐずぐずしてるんだ。
 サー起きろよモンスター
 Sleeping Monster
 俺はお前を待ってるぜ。
 Sleeping Monster
 Sleeping Monster


[ 天使よ、こんにちわ ]

俺の心の革命とも言うべきこの危険な時期に、俺はあの人を見たのだ。
唯ひたすらに、歌に生命ちを賭けるがごとくに、あの人は歌い続ける。

あの日、
バスの中での歌声は青空を突き抜け、宇宙の果てまで届けとばかりに響いた。
そして共に歌ったあの時、俺は、俺たるゆえんを失くしてしまった。

ほんの一、二分だったにしても、俺はその歌声に浸ったのだ。
そして共に心を奏でたのだ。

冬のさ中を彷徨していたこの俺を、あの歌声は、春の陽射しの下へと運んでくれた。


春がきた!
腹一杯に春が来た。
頭一杯に春が来た。
あの青い空に浮かぶ白い雲に、この冷たい風に誘われて、花も芽を吹き出した。
よーし、力一杯背伸びだ。

道を行く人の顔に、手に、足に、春が一杯だ。
口からもれるその笑い。
子ども連れのおばさんの顔にも、笑いがこぼれる。

暗い色から明るい色へ。
白いワンピース、赤いツーピース。
赤のブラウス、緑のスカート。
シャツの袖をまくった女の子。
いいゾ!いいゾ!
健康が一杯だ。

歌の文句じゃないけれど、カトレアのような派手な人。
すずらんのような愛らしい人。
パッと花が咲く。
俺の心にも春が来た。

吹き荒れたこの荒地に、水も無いのに花が咲く。
ハンドル持つ手に力が入る。
そーれ、ローだセカンドだ。
サードで伸ばせ、グーン、グン。

おっとここは40km/h。
出すのはいいが、パトカーが恐い。
用心、用心。
俺は狙われている。

菜の花に飛び交う蝶々たち、この俺にも
その内、飛んできてほしい。
サー、張り切ろう。
春が来た、春が来た。
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