いつしか恋人の家の前に船はかかり 窓のガラスが光っている。 僕は目がとびでるでるほどに見つめた、 が、 僕に手を振ってくれるものはない。 ---------------------------- 雨上がりの川は、重たく流れている。澄み切っていた水も濁りきっている。河原の石は雨に打たれて、又一段と 丸味が加わったことだろう。 私はポチを連れての散歩である。そのポチは、何とか私の元から離れようと一生懸命走っている。その度に、折角丸味のついた石を傷つけている。ポチの行こうとする先を見つめる。 その視線の先に一人の少女と一匹の白いスピッツがいる。ようやく合点がいった。私は満面に笑みをたたえて、そのスピッツの元に、いや、少女の元に歩み寄った。私は下駄をはきなれず、巧く誘導できない下駄を苦心に苦心を重ねて駆使し、少女の元に歩み寄った。 少女は暖かく僕を迎えてくれた。僕はそのスピッツを褒める。少女は僕のポチを褒める。しかし、お互いのことは何も話さなかった。僕は、ふとポチに目をやった。ポチはその白いスピッツについて色々と観察している。スピッツはされるがままにしている。 僕もポチの真似をして、少女を色々と観察した。白いブラウス、ボタンのところに色々と装飾が施されてある。袖口は、可愛らしいリボン形式に結んである。ほっそりとしたきれいな手だ。指の先の爪は、きれいに磨いてある。 スカートは、ふつうのサイズ。きめの細かいヒダがあり、黄色と黒のチェック柄だ。足は、少し太めだ。少女の持つ雰囲気とは少し異なる感じだ。そして、そんな体を小さなサンダルで保っている。 少女は、恥じらいながら僕を見上げている。僕は、ポチを促して歩き始めた。相変わらず、川は濁りきっている。しかし、僕の心は晴れ晴れとしている。雨上がりの五月晴れだ。”でかした、ポチ!”と、心の中で叫んだ。 少女は、笑う度に白い歯をのぞかせる。しなやかな髪は、肩にまで届いている。そしておでこが、妙に太陽の光を反射させる。僕は、頭に手をやりボリボリとかいた。少女は急にクスクスと笑いだした。僕もつられて笑い、又一層ボリボリとかいた。その内に少し痛くなったのでかくことをやめて、ポチの頭を撫でた。 ”でかした!” ポチは白いスピッッと楽しそうに、いかにも楽しそうに戯れている。 僕は大きく息を吸い、そして大きく吐いた。少女はそんな僕を何か眩しいものを見るような目で見つめている。僕は気付かぬふりで、傍らの小石を拾い力一杯投げた。 石は数秒後、ポチャンと音を立てて落ちた。その石もいつかは流れ流れて、あの海にまでも流れて行くのだろう。僕 は感慨深く川を見つめた。少女も又、違った面から感慨深そうに見つめている。少なくとも僕には、そう見えた。 |