あゝ、今すぐに助けに来ておくれ。
あゝ、だれか、誰か、、、

 闇が、恐ろしい闇が、
 このわたしを、
 今にも舐め尽くそうとしている。

 あゝ、あしが、足が、消えてゆく。
 こんなにも早く、もろく・・・

 あゝ、とうとう、腰にまで来た。
 おゝ、この、この手が、手までが消えてゆく。

 手が消えてゆく。 
 わたしの世界から、離れてゆく。

おゝ、やめて、やめてくれぇ。
おゝ、私の体が動かない。

 まるで足に、根が生えたように。
 もしかして、闇の手が、
 わたしをしっかりと抱きしめているのか?

 あゝ、頼む、お願いだ、動いておくれょ。
 おゝ、とうとう首にまで。
 
 おゝ、いきが、息ができないぃ。
 苦しい、く・る・し・いぃ!
 
 あゝ、何ということだ。
 とうとうわたしの世界は、消え失せた。

あゝ、お願いだ、誰か 救いの手を!
このわたしを見捨てないでおくれ。

 おゝ、・・・・・・・・
 声・・・・までが・・・
 で・な・く・・・なるぅ。

 “ちくしょう!”
 だが、わたしのこの
 わたしのものだ。
  

=誰か、救いを!=






海はいつか日暮れて
僕の胸に恋の剣を刺したまま
その波間に消えた。
追いかけても君は見えない。
白い闇が迫りくるだけ。

恋はいつか消えて
僕の胸に涙の粒を残したまま
その波間に消えていった。
追いかけても君は見えない。
白い闇が迫りくるだけ。


昨日も 今日も そして明日も
夏の渚に立って君を探しても
あの日の君はいない
あの日の君はもういない。

遥かな海・・・どこまでも
どこまでも果てしなく・・
が、その海もまた・・・・
限りない空・・どこまでも
どこまでも広がり続く・・
が、その空もまた・・・・


水平線では、空と海が一つになる。
なのに・・・君と僕は、
追いかけても、追いかけても
水平線はどこまでも
果てしなく 広がり続ける・・・

わからない、わからない、
追いかけるほど、わからない・・
                 =太陽の






私が、お前が必要だと呟いたとき、お前は言った

                 ━ いつまでも貴方と共に、と。

全てを投げ打って、私はお前の元に。なのに・・お前は居ない。

何と言う欺瞞、お前はどこだ!
              

お前は、私を裏切りはしないよね。
                  私は、お前を信じていよう。
お前は、私を愛してくれているね。
                  私は、お前の物なのだから。

       お前は、一体何を考えているの?
  時は、待ってはくれない。やがては、朝が訪れるだろうょ。
    お願いだ!こんな惨めな私を、晒さないでおくれ。


お前は、言わないというのか?
                     ━ 愛している、とは。

そんな、そんな、こと・・。 お前は、やはり帰ってこない。 

でも、信じてる、信じるょ。


私のこの身が、涯てようとも、
              時が、この私を彼方に追いやっても
お前への愛だけは、この地に
              時が、この私を黄泉に突落としても
お前への愛だけは、浮き世に
              いつまでも、とどまることにしよう。

         愛している、愛してるょ。
       私は、想い出と共にお前を待とう。
       私は、消えてしまう ━ 嘘ではない。
       が、お前への愛だけは消えはしない。
                                           =この胸のときめきを=






ある冬の街角で・・・、そう、少し雪の散らつく寒い夜のこと。ダウンジャケットのポケットに迄、冷たさが忍び込んできた。

路面がうっすらと雪の化粧をし、街灯の灯りで眩しい。ひっそりとして、明かりの消えたビルの前を、ポケットの中の小銭をちゃらつかせながら歩いていた。

とその時、後ろから恐ろしく気味の悪いーかすれた、腹からしぼり出すような声がする。

”だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!”

どぎまぎしながらも後ろを振り向いた。全身が血だらけで、片腕のちぎれかけた男が、呼び止める。生々しいタイヤの跡が、顔面に刻み込まれている。

その男、確かにどこかで見たような気がする。が、あまりの形相に思わず目をそむけた。そのまま逃げ出し、左へ折れた。

そう。男の言う、行ってはならない左へ行った。

と、フト思い出す。血だらけの男の居た場所は、雪が白かった。

曲がりきって、あの男から逃げおおせたと気を許した瞬間、雪化粧の路面で足を滑らせ、道路の中央に転んだ。

その時、チェーン無しの車のすべる音。その音を耳にした時、俺の目の上をタイヤが滑っていく。

何だ、これは!一体、どうしたことだ。目の上にタイヤが・・・。

”ウワァオ!”

「だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!」

精一杯、腹からしぼり出すように、俺は叫んだ。
                              右に、行け!





              
時の流れは今 川となりました

銀の皿は流れるのです その上に空を乗せたまま

その夜 空は消えました その朝には太陽が消えました

                             =朝・太陽が消えた=


                                  

wail poem