其の七

 その昼、俺は開放感に浸った。無事に原稿を書き上げて、バイク便で出した。メールでの送信が楽なのだが、田坂に言わせると危険だと言う。盗まれる恐れがあると言うのだ。どういう仕組みかは分からんが、電話で言う盗聴にも似たことらしい。パソコン内に、原稿を残すことは止めてくれとも言われた。ハッカーなる人種にかかると、いとも簡単にパソコン内の情報を盗めるらしい。どうにも理屈が分からんが、電話回線を通して侵入するらしい。但し、これが分からないのだが、インターネットに接続している場合に限るらしい。確かにこのパソコンは、常時接続状態になっている。この常時接続なる物が、分かったような分からんような物なのだが。理屈はどうあれ、パソコンが立ち上がっている限り、インターネットに接続されているらしい。
 言われてみれば、モデムなる物での接続時には、その都度“接続中”と画面表示された。何やら、ダイアル音も聞こえた。しかし今は、スッとホームページが表示される。メールにしても、そうだ。アラーム音が鳴り、メールの受信を教えてくれる。
「こりゃあ、楽だ。」と喜んでいたが、とんでもない裏がある訳だ。といって、常に侵入されている訳でもないらしい。
「ハッカーに狙われた時だけです。」と言うから、益々分からなくなる。何にしても原稿は、フロッピーに保存させられている。便利なのか不便なのか、さっぱり分からん。まぁ、もう一台増やすつもりではいるが。
 束の間の休息を取ることにした。といって、外出はしない。寝るのだ。泥のように眠る。何せ、この三日間というもの、徹夜状態だった。この週は、大変な週だった。週刊誌への連載物は当たり前として、月刊誌の連載物の締め切り日と、迂闊にも単発物を引き受けてしまった。更に、月一回のエッセイが重なってしまった。そんな状態にも関わらず、出会い系サイトの女性、そしてのぶこ。全く、田坂の奴めが。何が、息抜きだ。死ぬ思いをさせられたじゃないか。もっとも、田坂に恨み言を言う訳にもいかん。単発物やエッセイの締め切りは、田坂の預かり知らぬことだし。
 欠伸の連続だ。とに角、シャワーだ。体が痒くてかなわない。湯船に湯を入れながら、念入りに洗う。たっぷりシャンプーを使い、念入りにリンスも使った。お気に入りのボディシャンプーで、足の指先まで丹念にだ。何せ、うん十年来の水虫とお別れ出来たのだ。
たっぷりの湯船に浸かると、疲れがスーッと抜ける気がする。ゆったりと足を伸ばし、両手を大きく伸ばす。まったく、至福の時だ。風呂は、良い。リラックスできる。リラックスできるのは良いのだが、時として眠ってしまう。で、湯が冷めることで起きるのだ。風邪を引いてしまったことも、ある。

 玄関のチャイムが鳴った。慌ててバスローブに身を包んで、ドアを開けた。
「はい、どなたですか?」
 不思議なことに、誰も居ない。空耳だったかと、バスルームに戻った。もう一度入り直したものの、猛烈に眠気が襲ってきた。結局、ベッドで眠ることにした。ベッドに滑り込むと、先客が居る。
「誰だ!」
 布団をめくり上げると、何と、あの少女が居る。怯えた目で、俺を見上げている。どういうことだ、これは。
「何でも、します。何でも、します。」と少女は体を固くして、俺に懇願している。状況が理解できない俺は、
「どうして、ここに居るんだ。どうやって、入ってきた。」と、詰問した。しかし少女は、相変わらず同じ言葉を繰り返す。少女は、小刻みに震えている。両手を顔の前で合わせ、祈るような仕草をしている。
 疲れているのだ、俺は。泥のように眠りたいのだ、俺は。しかしそんな状態にも関わらず、少女の体にむしゃぶりついた。両手首を掴むと、腰の辺りに下げた。そして顔を背けようとする少女の顎を掴むと、唇に吸い付いた。必死に逃げようとするが、顎を掴んだ手に力を入れた。少女の顔が、苦痛で歪む。やがて少女も諦めたらしく、動きが止まった。
「大丈夫、大丈夫だから。」
 何が大丈夫なのか分からぬま丶、俺は意味不明のまま囁き続けた。少女も又、唯頷いている。怯えの色は、相変わらず目に宿っている。バスローブを脱ぐと、改めて少女の体を見た。優にFカップはあろうかという乳房。縊れた腰、張りのあるヒップ。やゃ太めな太腿、そしてスラリと長い足。足首は細く、足は小さめだ。均整が取れた、見事な肢体だ。暫く、見惚れてしまった。乳房に手を添えると、吸い付くような肌だ。程好い弾力もある。少し力を入れると、弾かれるように感じられる。コリコリとした乳首は、実に美味そうだ。思わず、口に含んだ。
「あっ!」
 少女の口から、声が漏れる。掠れた声が、悩ましい。舌先でコロコロと転がすと、体がピクリと反応する。ゆっくりと手を脇腹に這わせる。俺の手からこぼれる乳房を、ゆっくりと揉みし抱いた。見事なまでの巨乳だ。これ程の大きさは、麗子以来だ。脇腹を這わせていた手を、少女の臀部に回した。キュッと、お尻に力が入った。強ばった臀部を撫で回しながら、太腿の内側へと手を移動させた。ピッタリと足が閉じられ、侵入を阻止しようとする。俺は体を横にずらしながら、半回転した。目の前に、少女の足がある。きれいな指だ。爪も、キチンと手入れされている。親指を、そっと口に含んだ。口を窄めて、親指を弄んだ。閉じられていた指が、ピンと開く。舌先で舐めてやると、指先を曲げてきた。そんなことにはお構いなしに、中指、薬指をと、舐め回した。

 小さく声が、漏れる。片手で乳房を愛撫すると、乳首が更に大きく、固くなっていく。両足指を舐め尽くした俺は、ゆっくりと足首からふくらはぎへと舌先を這わせた。少女の力が少しずつだが抜け始め、閉じられた足も開き始めてきた。少女をうつ伏せにすると、ひざの裏側に勢い良く吸い付いた。何の反応もない。そのまま上へと唇を這わせながら、こんもりとしたお尻に噛み付いた。
「痛い・・」
 小さな声だ。歯形の付く程に噛んだ割には、痛がり方が弱い。更に強く噛むと、血が滲み始めた。それでも、少女は耐えている。シーツを口で噛みながら、耐えている。俺は滲んだ血を舌で拭き取りながら、少女の腰辺りに手を差し込んだ。押し潰されている乳房が、体からはみ出している。何とも、悩ましい。手を滑らせて、押し潰されている乳首を指で挟んだ。少女のシーツを掴む指が緩んだ。口から、嗚咽の声が漏れる。
「仰向けに、なりなさい。」
 優しく声を掛けると、気だるそうに少女が動く。ベッドから体が浮くと、少女の乳房が円錐形になった。すかさず少女の下に頭を入れると、背中に手を回した。大きく口を開けて、その乳房に吸い付く。しかし、その半分ほどしか口に出来ない。むしゃぶりついたまま、少女を仰向けにさせた。少女の上に伸し掛かったが、何の反応も示さない。両手で乳房を揉んでも、乳首を軽く噛んでも、反応が無い。まるで人形を抱いているようなものだ。
 少女の顔を見やると、無表情だ。カッと目を見開いて、一点の空を見ている。俺は焦った。何とかその能面のような表情を変えさせようと、乳房を揉む手に力を入れてみた。乳首を更に強く噛んだりもした。しかし、苦悶の表情すら見せない。現実から逃避しているのか。突然の、少女の変化だ。少女の唇に吸い付いても、舌を挿入しても、為されるがままだ。少女の舌を強く吸い込んでも、何の変化もない。初めての経験に、俺は戸惑った。いきり立っていた逸物が、次第に萎え始めた。極上の体を手にしているというのに、どうしたことだ。
「バカみたい・・」
 小さく、少女が呟いた。瞬間、俺の背に、悪寒が走った。
「なっ、何だ?眠っていたのか・・。」
 冷めた湯船の中に、俺は居た。白い糸状の物が、水面に浮かんでいる。逸物から、幾筋も精液が流れ出ていた。
「何て、ことだ。夢精したのか。俺もまだ、若いということか。」
 それにしても、何て夢だ。然も、これ程鮮明に覚えているとは。しかし、リアルな夢だった。まだ体に余韻が残っている。
「そうか・・。レイプというのは、あ丶いうことか。そうだな・・。激しく抵抗して、それでも逃れられないと悟ったら、現実逃避に入るものだろう。無感覚の境地になるものだろう、さ。しかし『バカみたい・・』という言葉、あれは何を意味してるんだ?レイプ男に対する、精一杯の抵抗か?憐憫の情か?それとも、自分に対する慰めの言葉か?」
 実体験ではないが、どうにも気になる言葉だ。

 裸のままうろつきながら、空腹感を覚えた。外に出るのも億劫な気がした俺は、出前を頼むことにした。携帯を手に取り、メモリボタンを押そうとして、メールの着信があるのに気が付いた。
“ご苦労様でした。二作分ありましたが、次回作ですか?”と、ある。どうやら、例のレイプ作品まで送ってしまったようだ。
“レイプにしては、安っぽいですね。”二通目のメールに、あった。案の定、田坂にはお気に召さないようだ。
“推敲前だ!”と、腹立ち紛れにメールを返した。
“ピン、ポーン”
突然、チャイムが鳴った。心臓が激しく波打つ。あの夢と同じシチュエーションだ。
“まさか”と思いつつ、インターホンを取った。
「田坂です。食事前でしたら、ご一緒にどうですか。」
 どうやら、話があるようだ。断る理由もない俺は、連れ立って外に出ることにした。
 行きつけの中華料理店に入った。奥まった場所に陣取ると、
「いつものを、頼むよ。」と、店主に声を掛けた。
「先生、又ですか?いい加減に、他の物にしたらどうですか。ラーメンと炒飯ということは、ないでしょうに。えぇっと、中華飯だな。」
「お前さんだって、同類だろうが。」
「私と違って、先生は高額所得者なんですから。」
「良いんだ、これで。俺は貧乏性なんだ。食い物なんか、腹に入ってしまえば、皆同じだ。」
「そんなもんですかね。」
「そんなもんだ。金を掛けるのは、女に対してだけだ。」
 俺の本音だった。俺には、グルメと称される人物の気持ちがさっぱり分からん。もっとも女に対する興味が薄れたら、案外グルメと称される人種の仲間入りをするかもしれんが。
 空腹だったせいか、田坂の驚愕の視線の中、あっという間に平らげた。そう言えば、丸一日何も食べていなかった。
「ところで、先生。最近、オーバーワークじゃないですか?誤字や脱字が、目立つんです。先生一流の言い回しかとも思えるんですが、如何にもおかしいものがあります。編集長に原稿を見られちゃいましてね、心配しているんです。」
「そうか・・。そんなに多いかな?うーん、確かに疲れが取れないんだ。」
「最近は、本も売れなくなりまして。写真集も、頭打ちなんです。やはり、ヘア解禁が痛手です。当初は、良かったんです。まぁ、これだけ氾濫しますと、どうしてもですね。余程の大物タレントか、全盛のアイドル以外では。といっても、それらでも部数は激減してます。こんな時に、先生に倒れられでもしたら、大変ですから。本当なら今夜も、賑やかに行きたいところなんですが。編集長に、釘を刺されたんです。まぁ、実際のところは経費節減といったところですがね。」と如何にも残念そうに、田坂が言う。本音だろう。
「そりゃ、悪かった。確かに、オーバーワークだな。これからは、気を付けるさ。しかし、経費削減と来たか。“ヘアー写真集よ、お前もか!”だな。そうだな。見えそうで見えない、それが良いんだ。ドキドキすることがないんだ、最近の写真集は。モデルのだな、乳首がだめなんだな。ビンビンになってない。いかにも、『ヘアーを見せれば良いでしょ。』だからな、愛がないんだ。撮り手と被写体が、バラバラなんだ。読者も馬鹿じゃない。挑むような目付きにしても、作ってちゃいかん。愛想笑いなんか、見透かされてしまうさ。エロ小説でも、そうだろう。体位がどうの、じゃないんだ。克明な描写も、繰り返し繰り返しでは飽きちゃうさ。今は、直線的なんだ。『白か、黒か!』なんだ。活字での表現は、映像には負ける。どうしても、読み手の協力が要るんだ。想像力、というな。」
「ですねぇ。活字離れを言われて、久しいですし。内の会社でも、漫画本花盛りです。鼻息が荒いですよ、実際。」嘆息交じりの田坂の言葉には、実感がこもっていた。
 それにしても気が滅入った。田坂と別れた後、マンションに帰る気にもならず、といって飲みに行く気にもならない。タクシーが走り去った後、どうしたものかと考えあぐねた。携帯電話に表示されている時刻を見ると、20:05を指している。しかし携帯電話も便利なものだ。時刻表示は勿論だが、日付さえ表示される。更には、計算機代わりにもなると言う。驚くべきは、これから先クレジット機能付きも発売されるとか。もっとも「いつもニコニコ現金払い」をモットーとしている俺には、無縁の物だが。
「先生。クレジットカード位は持ちましょうよ。VIPカードは、どうです?男のステータスです。」と、田坂に言われる。
「そんなもの、要らんさ。ステータスだ?俺のどこに、ステータスがあるんだ!エロ小説を生業としている、俺なんかに。」と、自虐的に吐き捨てた。しかし、インターネットを始める際に必要となってしまった。プロバイダー契約において、どうしても必要となってしまった。年会費が要ると聞いて、“そんなもの!”と思いはしたが、
「絶対、必要です。騙されたと思って、持ってください。後々、その恩恵に預かれますから。」と、説得されてしまった。

 当てもなく歩いている俺に、声を掛ける女が居た。
「シャチョー、さん。ワタシ、ヒマしてる。どう?三枚でいいよ。」
 振り向くと、フィリピーナのようだ。大きく胸元の開いたティーシャツと、超ミニのスカート姿だ。“Love”という文字が、プリントされている。その上に、毛皮のチョッキらしき物を引っ掛けている。胸の谷間を強調するように、腕組みをしている。胸を反らせて、誘っている。そんなものに胸躍る俺ではないが、腰の張りが気に入った。その女、マリアだと名乗ったが、俺の視線に気が付いたらしく、クルリと一回りをして見せた。
成る程、ヒップラインが良い。ツンと上向いている。腰のくびれも、良い。抱き心地が良さそうだ。
「あぁ、又な。」
 俺は軽く片手を上げて、歩き出した。
「シャチョーさん、ワタシ、お茶ひーてる。」
 俺の腕を取って、懇願してきた。お茶を挽くなどと、風情のある言葉じゃないか。
「シャチョーさん。ショーテンする、ワタシ。」
 俺の腕に胸を押し付けながら、哀願するような目をしてきた。
「おいおい、お前さんが昇天するのか?俺を、させてくれるのじゃないのか?」
「ワタシ、ニホンゴ、うまくない。シャチョーさん、おしえる。ワタシ、おぼえる。お礼に、シャクハチする。どう?」
 尺八とは、又、嬉しい響きだ。何となく、興味を覚えてきた。
「そうだな。それじゃ、お祭りでもするか。」
「オマツリ?それ、どういうことか?」
「そうか。さすがにこれは、知らないか。マリアのプッシーちゃんと、俺のおちんちんとで、わっしょい、わっしょい!することさ。」
「Оh!それ、スキ。オマツリ、大スキょ!オマツリしょう、すぐしょう。」
 エイズとまでは行かなくとも、性病に対する不安がありはしたが、
“ゴムを着ければ大丈夫だろう。”と、タクシーに乗り込んだ。ラブホテルにでも、と考えたが止めた。勿論、マンションに連れて行くつもりはない。時折利用する、会員制ホテルに決めた。ステータスが求められるホテルで、誰でも利用できるホテルではない。一般には知られていない。ここで、例のクレジットカードが効いた。身元の確認など、一切しない。有名人や芸能人が多々利用するホテルで、一見してそれと分かる女性を連れ込んでも、同伴ならばОKだ。カードを作る際の、“恩恵に預かれますから。”という言葉の意味が分かった。田坂が教えてくれたのだが、まったく便利な男だ。
 一般的なマンションに見えるホテルに着くと、フロントにVIPカードを提示する。教育の行き届いているフロントマンで、決して客の顔を凝視することはない。番号をパソコンに打ち込むと、深々と頭を下げてキーを渡してくれる。指定されたエレベーターに乗り込むが、他の客と鉢合わせすることはない。廊下ですれ違ったことも、一度としてない。各フロアは、十室程度といったところか。どの程度の客が利用しているのか、皆目検討がつかない。もっとも、六階までしかボタンが無い。それ以上の階は、何に利用されているのかは分からんのだが。

 客室は、二部屋になっている。さ程に広くはないが、リビングとベッドルームになっている。勿論、バスもある。バスタブは、二人が入っても十分な大きさだ。少し無理をすれば、三人が入れなくもない。一度試してみるかと思いつつも、機会に恵まれない俺だが。
おどおどとした態度で、俺の後ろから付いて来たマリアだが、部屋に入るなり
「シャチョーさん、スゴイネ!ワタシ、こんな所はじめて。シャチョーさん、お金持ちね。ワタシ、がんばる。」と、興奮気味にまくし立てた。チョッキらしき物を脱がせてやると、いきなり俺の首に手を回してきた。
「シャチョーさん、アナル好きか?シャチョーさんなら、OKよ。」
 上目遣いに、甘えるような声を出してきた。そして、俺の唇に吸い付いてきた。ねっとりとした舌遣いだ。さすがに、上手い。頭の芯が、痺れるような感覚に襲われた。
「シャワー、するか?」
 糸を引くような濃厚なキスの後、マリアが俺の耳元で囁いた。少し体が冷えている俺は、熱い湯に入りたくなった。
「そうだな、そうしょう。」
 マリアはハミングしながら、先にバスルームに入った。腰をくねらせて歩くマリアの後姿を堪能しながら、俺はタバコをくゆらせた。
「シャチョーさん、少し待つ。」
 バスルームから顔を覗かせながら、マリアが言う。
「マリア、日本に来て何年になるんだ?」
「マリアは、日本に来てサンツキです。」
 意外な事を言い出した。これだけの日本語を話せるのに、三ヶ月はない。
「三年の間違いじゃないのか?」と問い質すが、三ヶ月だと言い張る。但し二度目の来日で、一度目は一年と少し居たと白状した。一旦帰国したものの、フィリピンでの仕事が見つからず、再度来日したと。
「マリアは、ナースです。でも、フィリピンでは仕事がない。たから、家族を養う為に日本で稼ぐネ。」
 キラキラとした目で、俺を直視してくる。真っ直ぐな目をしている。嘘を付いている訳ではないようだ。俺にしてみれば、マリアが看護婦であろうと、家族を養う為の日本であろうが、そんなことはどうでも良い。
「マリアは、いくつだ?」
「いくつ?Ageのことか?むふふ・・。シャチョーさん、当ててみな。」
「そうだなぁ・・、二十・・六、いや七かな。」
「ノー、ノー!もっと、若い。おっぱい、見て!」
 突然に、ティーシャツをめくり上げると、ブラを外した。プルン!と、張りのある乳房が飛び出してきた。まじまじと見つめる俺に、乳房を鷲掴みにして挑発してくる。
「マリアは、まだニジューサンです。」と、挑むような目付きを見せた。そして俺の足の上にまたがると、その乳房を押し付けてきた。見た目ほどには、弾力がない。
「ゴメンナサイ、シャチョーさん。マリアには、子供いる。今、ニサイなる。子供置いてきた。少し、さびしい。」

 とんでもないことを言う。そんな身の上話を聞かされたところで、同情する俺ではないのだから。聞かぬふりをして、乳首に吸い付いた。
「あ、ふぅ〜ん。シャチョーさん、おじょーず。マリア、感じる。」
 言葉もそうだが、その甘えた声に鼻白んだ俺は、マリアを突き放した。
「オコタか、シャチョーさん。子供がいるマリアは、キライか?」
 突然のことに、マリアは少したじろいだ。娼婦のマリアに、駆け引きは要らん。
「そんなことは、どうでもいい。俺を、昇天させてくれるんだろう?」
「Оh!がんばる、マリア。お風呂に、入るか?」
 湯船から湯が、溢れ出ていた。俺の肩に掛け湯をしながら、淋しげな声で
「シャチョーさん、マリアがキライですか?」と、聞いてきた。
「どうしてだ?」
「シャチョーさん、オコテるから。マリア、おばさんに見えるか?嘘は、付いてない。ホントに、ニジューサンです。」
「ハハハ、怒ってないさ。年齢は、どうでもいい。」
 東南アジア系は、実年齢より若く見えそうだと思っての、ことだ。目鼻立ちがハッキリしている。二十歳だと言われれば、“そうかもな”と、思ってしまう。
「マリアは、シャチョーさんがスキだ。こんな素敵な部屋に連れてきてくれたし。お金、たくさんくれたら、もとスキだ。」
「あぁ、良いとも。昇天させてくれたら、たくさんやるさ。」
「マリア、がんばる。ナニしたら、うれしいか?シャクハチするか?」
 マリアの乳房が、俺の背中に押し付けられてきた。そして左右に体を動かしてきた。乳首の感触が、コリコリと心地良い。マリアの手が前に回され、右手で俺の逸物を撫で始めた。左手は、心憎くも俺の乳首を摘んでくる。その間も、乳首による攻撃は続いている。金欲しさとはいえ、その真摯さは、日本の風俗嬢には無いものだ。
次第に、縮こまっていた逸物が元気になってくる。
「Оh!ベイビーが、おとなにナタ。マリア、うれしい。シャチョーさん、バスにはいれ。」
 促されるままに、湯船に浸かった。少し温めだが、すぐにも体は暖まるだろう。マリアも又、俺に続いて入ってきた。対面座りをすると、俺の腰をグッと持ち上げた。危うく沈みかけた俺は、慌ててバスタブの縁を掴んだ。マリアの太腿が、俺の腰の下に滑り込んできた。日本で教えられてのことか、それとも故国で知っていたのか、潜望鏡プレイとなった。逸物をパクリと銜えると、すぐさま激しく動き出した。水面が激しく波打つ。うっかりすると、俺の口に湯が飛び込んできそうだ。

「ぷ、ふうぅ。」
 マリアが、大きく息継ぎをする。
「ドウカ?ショウテンしたか?」
大きく目を開いて、俺に聞いてくる。
「昇天はしないが、Goo!だ。」
 つい、本音を漏らしてしまった。マリアは、ニッコリと笑うと
「マリアは、うれしいよ。シャチョーさんが悦ぶこと、もっとする。」と、嬉しいことを言ってくれる。
「シャチョーさん、のぼせてないか?ダイジョーブか?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「あっ、ふぅ〜ん。」
 甘えるように声を出す。演技だと分かってはいるのだが、腹は立たなかった。
「先に上がるが、マリアはそのままでいい。」
「ワカタ。シャチョーさん、ベッドでマテテ。マリア、キレイになるよ。」
 バスタオルを腰に巻いたまま、ソファでビールをひっかけた。
「参ったぞ、こりゃあ。前段で、射精してしまうとは。まったく情けない。日本男児の沽券に関わる。」等と、柄にもないことを口にした。
「シャチョーさん、元気にナタカ?」
 素っ裸で、マリアが出てきた。タオルで拭くでもないマリアから、しずくが滴り落ちている。手に持ったバスタオルを、俺の前に差し出してきた。拭いてくれ、ということか。
マリアの手首を掴むと、グッと引き寄せた。足の上に横座わりにさせると、口でしずくを吸い取ってやった。
“キャッ、キャッ!”と嬌声を上げながら、俺の首に手を回してきた。そして妖艶な色を見せながら、ゆっくりと唇を合わせてきた。俺の上唇を包み込むと、マリアの舌先がネットリと舐め回してくる。
「シャチョーさん、ベッドいくか?」
 耳元で、囁く。俺は力なく立ち上がると、マリアに導かれるようにベッドに移った。
 ベッドに横たわった俺だが、まだ頭がボーっとしている。マリアの舌が、乳首を舐め回している。これ程に乳首への愛撫が、気持ち良いものだとは思いもしなかった。癖になりそうだぞ、これは。体が浮いてるような感覚に、襲われている。俺自身が、乳首だけのようにも感じる。他の部位の感覚が、まるでない。全ての神経が、乳首に行っているようだ。
マリアの舌が、更に下がっていく。おへそに届くと、今度はへそに神経が集中する。実に不思議な感覚だ。マリアの舌が当たる部位だけがあるような、そんな錯覚に襲われる。ふっと、意識が遠のいてしまうようになる。このまま眠りに付くのも良いな、と感じさせられる。
「あっは〜ん。シャチョーさん、気持ちいいか?マリア、気持ちいいよ。」
 マリアの指が、俺の指に絡みついてくる。マリアの乳房が、大きくそして次第に激しく揺れる。ベッドのきしみ音が、部屋に響き始めた。隠微な音が、耳に響く。
「シャチョーさん、シャチョーさん。かたいよ、かたいよ。」
「シャチョーさん、シャチョーさん。マリア、気持ちいい!」
「シャチョーさんも、気持ちいいか?気持ちいいか?」
マリアの膝が、ベッドから浮いた。激しくベッドが揺れる。ギシギシと、ベッドが激しくきしむ。
「いくよ、いくよ。もう、マリアいくよ。ショーテンして、ショーテンして。マリアと一緒に、ショーテンして!」

「ばかみたい・・」
突然、少女の声が耳に響いた。途端に、逸物が萎え始めた。
「ショーテンしたか?」
 マリアの冷静な声がする。射精したわけではない。波が引いたのだ。マリアのせいではない。あの声だ、少女の声だ。
「ドシタカ?マリア、悪いことシタカ?」
 マリアの不安気な声が、遠くに聞こえる。マリアの必死のテクも、何の効果もなかった。萎えてしまった逸物が、復活することはなかった。少女の蔑んだような目が、俺の脳裏から離れない。あの言葉が、耳に響く。結局、俺は昇天することなくマリアを帰した。あの付近にいつも居るから元気になったら声をかけてくれ、と何度も言う。生返事をしながら、手を振って追い出した。
 正直、ショックだった。疲れからだと思い込もうとした。ぐっすり眠れば大丈夫。以前にも、あったことだ。しかしすぐに、回復したんだ。女が変われば、大丈夫。
“そうだ!一度、射精した。不覚にもマリアのテクにやられた。それに今夜の俺は落ち込んでいたんだ。気が滅入っていたじゃないか。だからさ。明日には、笑い話になるさ。”
自分で自分を、必死の思いで慰めた。

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