其の八

 翌日は、マンションで日がな一日のんびりとした。パソコンのスイッチを入れることなく、携帯電話の電源も切った。インターホンの電源も、切った。一切の、外部との接触を絶った。とに角、何もしない。シャワーを浴びて、素っ裸になった。裸になることには、何の意味もない。他人様に自慢できるような、肉体美を持っているわけではない。他人様に見せびらかせるような、逸物でもない。しかしそれでも、ぶらぶらさせているのは爽快だ。体から湯気が立つ程に熱いシャワーを浴びて、キンキンに冷やしたビールで喉を潤している。至福の時だ。下手なセックスより、余っ程良い。
 の、積りだった。確かに、暫くは良かった。クラシックのCDを流しながら、ビールを二本三本と開けた。しかし、次第に心がざわつき始めた。苛立ち始めた。何に、ということはない。酔いが回ってきたせいではない。どちらかというと、酔った俺は陽気になる。顔が、自然にほころび始める。といって、饒舌になる訳でもない。同席した人間には、むっつり助平だと評されている。実のところは、分かっている。あんな小娘如きに振り回されるとは、俺も焼きが回ったものだ。やおら立ち上がると、パソコンを立ち上げた。江戸の敵を長崎で、という訳でもないが、あの小娘を陵辱したくなった。
 虚脱感に襲われて、もう何日になるか。初めての経験だ、何もする気が起きない。断れる仕事は、全て断った。しかし、田坂への原稿だけは落とすわけにもいかず、書くには書いた。そしてバイク便で届けさせた。駄作だと分かっている作品を。
 案の定、素っ飛んで来た。しかし憔悴しきった俺を見た途端、何も言えなくなったようだ。それでも、少しの手直しを加えはしたが。結局、渋い顔をしつつも、受け取ってくれた。
「すまん、今回はこれで勘弁してくれ。なぁに、体が回復したら、バリバリ行くさ。アイデアは、どんどん出てきてる。」
「分かりました。次回は、お願いしますよ。」
 何度その言葉を、繰り返したことか。ストーリーを披露すると、納得して帰って行く。しかし出来上がった作品を読むと、首をかしげる。
「ところで、先生。最近、パワー不足ですよ。読者からも、辛辣な手紙が来てます。社内でも、ちょっと問題になってます。あのレイプ物にしても、レイプされた女性は頂けません。恐怖感が、弱いです。」
 真顔で、田坂が切り出してきた。いつもの軽口ではない。ひょっとしたら、連載打ち切りの話が、持ち上がっているのかもしれん。
「最近の、二、三話がですね。陳腐だと、言うんです。いえ、過激にして欲しいということでは、ないんです。着眼点としては、面白いんです。唯、プロットがですね、安易なんです。何か、あったんですか?」
「いや、何もないさ。強いて言うなら、スランプかな?どうも、粘りがなぁ。以前なら、もっと推敲を重ねていたんだが。」
「お疲れ、なんですかね。・・・」
 何か言いたげな田坂だったが、次の言葉を飲み込んだようだ。
「分かってる。連載中止なんだろう、持ち上がってるのは。」
「はぁ・・、実はそうなんです。私としては、功労者の先生でもあることだし、続けたいんですが。」
「いいんだ、分かってる。歌を忘れたカナリアの末路がどうなるのか、分かってる。次回の連載は、出来上がった作品を読んでからにしてくれ。」
「申し訳、ありません・・」
 深々と、田坂が頭を下げる。済まなさで、一杯になった。突然目頭が熱くなってきた。どうしたことだ、これは。どうも最近の俺は、おかしい。涙腺が緩くなってしまった。ちよっとした感動的な話に出会うと、すぐにホロっとしてしまう。

 翌日、俺は出かけることにした。どうにも、あの少女が気になる。あの生々しい夢が、俺の頭から離れない。見つけたとして、どうなるものでもないだろうに。それより、果たして見つかるかどうか・・。とに角、あの交差点に出かけることにした。
 朝食兼用の昼食を牛丼で済ませた俺は、そこからタクシーを呼んだ。外に出てみると、どんよりとした雲り空だ。西空に、雨雲が見えている。夕方には雨になるかもしれない。
程なく来たタクシーに乗り込んだ俺は、はたと困った。
“あの場所で、いいものか・・。”
「どちらまで。」
「うん。Aデパートに行ってくれ。」
俺は目を閉じたまま、腕組みをした。
 タクシーを降りたものの、どことて捜す当てもない。相変わらず忙しなく歩く人込みの中に、佇んでしまった。
“とに角、あの交差点に行ってみるか・・”
 押されるように歩き出したものの、気が重い。行き交う人達の視線が痛い。のろのとした歩みの俺が、邪魔なのだろう。時には
「もう!」と言う捨て台詞を浴びせられる。
「いらっしゃいませー!」
「お立ち寄りくださーい!」
 呼び込みの声が飛び交う中、俺の歩みが少し速くなった。あの少女が居た交差点が見えてきた。どんよりとした曇り空のせいか、色褪せて見える。大勢の信号待ちをしている人の服装が、皆くすんで見える。目を凝らして捜して見るが、やはりのことにあの少女の姿はない。気落ちしながらも、とに角ビルの壁際に立つことにした。流れに逆らうように歩く俺に、又視線が痛い。と、俺の肩を叩くものが居る。
“あぁ・・又、田坂か・・”
そう思った俺に、突然思いも寄らぬ声が聞こえた。
「遅かったね、おじさん・・ずっと待ってたんだよ・・」
 あの声だ、少女の声だ。思わず振り返ると、白のタンクトップに白いホットパンツ姿の少女が居た。くすんだ人の中で、その少女だけは際立っていた。
「いや・・それが・・」
 情けないことに、言葉に詰まってしまった。長い茶色に染めた髪を風に揺らせながら、少女はつぶらな目を俺に向けている。ニコニコと俺を見上げている。
“黒子・・、そうだ!黒子はどうした?どこにもないぞ・・”
 怪訝な思いでいる俺の腕を掴むと
「さっ、行こうよ。」と、引っ張る。
「や、約束してたかな?・・」
「いいから・・いいから・・」

 少女は人込みの中を、スイスイと通り抜ける。少女の行く手を遮る人は誰も居ない。皆が皆、道をあけてくれるような気がする程だ。何にしろ、俺は少女の後ろを連いていくだけだった。
「どこに行くんだい?」
 俺の問いかけにはまるで答えることなく、少女はアーケードのある商店街に入っていく。小ぢんまりとした店が建ち並び、俺には似つかわしくない場所だ。気恥ずかしささえ、感じてしまう。人懐っこく声をかける人々に、笑い返している。
「良く来るのかな、ここは?」
「うぅん・・初めてだよ・・」
 事も無げに答える少女に、俺は呆気にとられた。見も知らぬ他人から声を掛けられても、俺はひと言も返事をしない。気が付かぬ振りをしてしまう。これがいわゆる下町堅気とでも言うのだろうか、俺には馴染めぬ風情だ。
 急に少女が立ち止まる。パーラー・フルーツという看板がある。一階は果物屋で、二階がガラス張りの喫茶室のように見える。窓際のカウンターらしきものに、若い女性達が座っている。下から見上げると、何とも悩ましい。足を組替える際に、チラリと見えそうな気がする。少女は、
「おじさん、ひと休みして行こう・・」と、店の横の階段を上がって行く。気後れしそうな場所だったが、仕方なく付き合った。洒落たBGMの流れる店内は、やはりのことに若い女性で一杯だ。コロンの匂いが充満していて、息苦しくなる程だ。
「いらっしゃいませー」
 ハキハキとした声が、店内に響く。少女は、さっさと窓際のカウンターに向かう。一人取り残された俺は、痛いような視線を浴びだ。
“なぁに、あのおじさん・・”と言った会話が、飛び交っているような気がする。少女はまるで無頓着だ。ウェイトレスがすぐにやって来て、
「あちらのお嬢様とご一緒ですか?」と、案内してくれた。
「オーダーをどうぞ・・」と、メニューを差し出してきた。そんな物を見せられても困る俺は、少女にすぐさま手渡した。少女はメニューの隅々まで見ながら、
「これと、これ、ね。」と、指差した。
「ありがとうございます、少々お待ちください。」と、下がって行った。
「何を頼んでくれたんだい?」
 少々不安げに尋ねた。
「だいじょうぶ、だって。フルーツなんだから、さぁ。」と、少女は受け合わない。
「いや、そうじゃなくて・・甘い物は、だめなんだよ・・」
「糖尿病なの?おじさん・・」
「そうじゃないけど、おじさんは辛党なんだ・・」
「いいって・・いいって・・」
 そう言ったまま、少女は下を見下ろしている。俺も吊られて下を見遣った。大勢の老若男女が、通っている。大事そうに玩具らしき物を抱えている、子供。買い物袋を重そうに下げている、主婦。手持ち無沙汰にその後ろを連いて行く、中年男。キャッキャッとはしゃぐ、女子学生。道端で座り込んでいる、若い男達。様々だ。

「君の名前、聞いていなかったね?」
 俺は思い切って、少女に聞いてみた。初対面の筈なのだ。少女は白い歯を見せてニッコリ笑うと、
「くくく・・分かんないぃ?当ててみて・・」と、意味ありげだ。
「う〜ん・・誰だっけ?・・以前に、会ってるのかな?・・」
「思い付く名前を言ってみて。大事な女性の名前を・・」
 屈託のない少女の笑顔を見ながら、思いつくままに名前を上げた。しかしそのどれ一つとして、少女は首を振る。終いには、怒った顔付きをする。
「も〜う!!もっと、大事な女性が居るでしょ!」
 大事な女性と言われても、あらかた言い尽くした。あと口にしていない名前と言えば、俺はまさかと思いつつ
「麗子・・?」と、小さく声にした。
「くくく・・その女性が・・一番大切なんだ・・くくっ・・」
 まったく、不思議な少女だ。やはり、俺を知っているのだろうか?しかし俺にはまるで記憶がない。
「知ってる、おじさん。本当に大切な女性の名前は、中々口にしないんだって。そうだよ、わたしは『レイコ』と言うの・・」
「本当かい?・・嘘なんだろう・・おじさんが言ったから、なんだろう?」
「お待たせしました。」
 フルーツが山盛りの、皿というかカップというか・・が運ばれてきた。季節外れの果物さえ、盛り合されている。旬という言葉は、今では死語になってしまったようだ。結局、俺の疑問は残ったままになってしまった。まぁいいさ、レイコと言うことにしておこう。名無しでは、具合が悪い。
 どこといって、特徴の無い少女だ。どこにでも居そうな、普通の女子高生だ。体型にしても、どちらかと言えば少年っぽい。胸はペチャンコだし、肩もどちらかと言えばいかり肩だ。腰のくびれだけが、女性特有の柔かさを持ってはいる。まあ、こんな娘とのデートもたまには良いだろうさ。
「幾つだい?」
「おじさん。レディに年齢を聞くのは、失礼だよ!」と、口を尖らせる。
「レディ、だって?」
 思わず、口にしていたフルーツを吹き出しそうになった。少女は含み笑いをしながら、
「へへへ・・レディは、ないよね・・高三・・」と、答えた。
「高三、と言うと・・十七かな?」
「ふふ・・十八・・でぇーす!本日、誕生日てぇーす!だからさ、・・プレゼントちょうだい!・・」と、ペロリと舌を出してきた。
「ほーう、誕生日なの・・分かった、プレゼントしょう。何が欲しいの?」
「やったぁ!」
 大きな声を出して、俺にしがみついてきた。ペチャンコだと思っていたが、少しは胸もあるようだ。もっとも、それを楽しむ余裕はまるでなかった。一斉に、視線が注がれた。ガラスに映るお客の顔に、不快感の色が見える。当然のことだが、ひんしゅくを買ったようだ。

アーケードの下を歩きながら、少女は色々の店を物色した。今時の若い娘達が何を欲しがるのか、皆目見当のつかない俺は、
「デパートにでも行こうか?」と、声を掛けた。しかし意外な言葉が返ってきた。
「ここで、探すの・・」
 小間物店に入ってアクセサリー類を物色して、鏡を前にして胸元に添えてみた。かと思えば、ドラッグストアに入り化粧品類を手にする。あれこれと、匂いを嗅いでみたり手に塗ってみたりもした。実に楽しそうにしている。俺の頬も、つい緩んでいた。世の父親の喜びを、束の間だろうが味わせてもらっている。
“こんな少女に対して何てことを考えたんだ、俺は・・。帰ったら、すぐにもあの作品は消さなくちゃ・・”と、自責の念に駆られた。
「おじさん?」
突然、少女が俺を小突いた。
「うん・・どうした?」
「予算は・・どの位?・・」
「ハハハ・・そんなことは、心配しなくていい。百万円なんて言われたら困るけれども、心配しなくていいさ。」
「ホント?だったらさ、ブティックに行っていいかな・・」
「あぁ、良いとも。」
「おじさん、スキ!!・・後で、お礼するからね・・」
 お礼だって?俺はつい良からぬ事を考えてしまった。慌てて打ち消したが、どうしても付きまとってしまう。援助交際という言葉が、どうしても消えない。しかし正直言って、その気にはならん。未発達な肢体では、性欲の対象にはなり得ない。それよりも、無邪気な少女とのデートを楽しむ方がいい、と考えた。
「ここっ、ここなの。」
 少女は嬉々として、店の中に入った。
「いつもね、ウィンドーショッピングしてたの・・」
 俺の耳元に、背伸びをして囁いてきた。少女の吐息が、俺の耳に心地いい。
「いらっしゃいませ、お嬢様のお洋服ですか?」
 オーナーらしき女性が、応対してきた。エレガンスなロングスカートだ。ゆったりとしたブラウスが、胸の膨らみを隠しているように見える。化粧も控えめで好感が持てる。一夜を共にしたい、と思わせる女性だ。しばし見とれていた俺に、少女が頬を膨らませた。
「もう、だめ!」
「そうなんです・・娘に似合う服を見立てて貰えますか。」
 俺は慌てて、少女を前に押し出した。にこやかに微笑みながら、
「そうですわね。当店は、大人の女性向けですので・・。お気に召す・・あっ、お待ちください。こちらに、ワンピースがございます。」と、店の奥に行きかけた。
「わたし、決めてるの。あのウィンドーに飾ってある、ドレスが欲しいの!」
 少女の指差したドレスは、驚いたことにチャイナドレスだった。龍の模様があしらわれたドレスで、腰辺りにまでスリットが入っている。どう考えても、似つかわしくない。
「それは・・ちょっと・・お嬢様には・・」
「レイコ、それはだめだよ。お前には、早すぎ・・」
「イャッ!これがいい。何でもいいって、言ったじゃない!!」
 強い口調で少女は言い切った。そのままドレスを手にすると、女性オーナーに手渡した。
「よろしいでしょうか?・・」
 訝るオーナーに、俺は黙って頷いた。ここで断ると、恐らくは少女は不機嫌になるだろう。それだけは避けたかった。
”他の物を買えばいいさ。このドレスは、誰かにやればいい“
そう考えた俺は、
「娘の言う通りにしてください。言い出したら、聞きませんから。」と、告げた。

「有難うございます、十七万円でございます。消費税を預からせて頂きますと、十七万八千五百円でございます。端数を切り取りまして、十七万八千円、頂戴致します。」
「VIPカードで、良いですかな?」
「ありがとうございます、お預かりいたします。」
 深々とお辞儀をしながら、オーナーは恭しくカードをトレイで受け取った。
「おサイズ合わせを致しますので、お嬢様、こちらにどうぞ・・」と、奥を指差した。
「そうだ、オーナーお勧めのワンピースも頂けますかな。」
「ありがとうございます。大きな花柄の、可愛らしいワンピースでございます。今、お持ちいたしますので、少しお待ちくださいませ。」
「わたし、そんなの要らない!」
突っ慳貧に、少女は拒否した。
「いいじゃないか、ま。嫌なら、着なければ良いんだから。」
 俺の言葉に、渋々といった表情で頷いた。オーナーは、満面に笑みを浮かべて
「お幸せですね、お嬢様は。重ね重ね、ありがとうございます。」と、又深々とお辞儀をした。意識してのことか無意識なのか、立位置が俺に対して少し斜めになっている。ブラウスのボタンが二つほど外れていることに、その時初めて気が付いた。白い肌が垣間見え、胸の谷間がしっかりと見えた。気のせいか、お辞儀の時間も長いような気がする。ありがたいものを見せてもらった。
”今度一人で来るか。その折には・・“等と、不埒な考えが湧き起こった。
「有難うございました、ワンピースが四万五千円でございます。こちらの消費税は、サービスさせて頂きます。」
 カードと明細書をトレイから受け取る時、オーナーの指が俺の指に絡んできた。
「ご確認くださいませ。」と簡単には手を離さない。その細い指をじっくりと堪能した。
”こりゃ、間違いない!俺を誘ってるぞ・・“
「又、お邪魔させてもらいます。娘抜きで、でも。」と、女性オーナーの耳元近くで囁いた。
「是非どうぞ、これからもご贔屓にお願い致します。お店は、夜八時迄でございますから・・」
 暗に、閉店間際に来てくれと言っているようなものだ。
「お待たせー!」
 奥から、少女が飛び出してきた。
「ねぇねぇ・・おじさんって、あぁいった女性が好みなの?」
 腕を絡ませながら、少女が聞いてくる。
「あぁ、大人の女性がいいな・・どうしてだ?」
「だって・・色々聞かれたよ。職業は何だ、とかさ。でもさ、お母さんの年齢を聞かれた時は、焦っちゃった。」
「職業?何て、答えたの?」
「ふふ・・聞きたい?小説家だって、言ったよ。大丈夫だって、エロ作品を書いてるとは言ってないから。ちょっとエッチな作品とは、言ったけどね。」
“ちょっと待て。どうして俺が、エロ小説を書いてることを知ってるんだ?知り合いの娘なのか?・・”
「おじさんのこと、何でも知ってるよ。今スランプだって、ことも。だからあの店に入ったんだよ。くくく・・刺激になったでしょ・・」
 まるで俺の心を見透かしたかの如くに、少女が言う。まったく得体が知れない。
「おじさん、ホットドッグ食べない?レイコ、お腹が空いてきた・・」
 アーケードの外れに来た所で、車が停まっている。コロコロとパンを転がしながら、良い匂いをさせている。レイコは、俺の返事も待たずに声をかけた。
「ふたつ、くださいナ。」

 俺は禁を破って、少女をマンションに連れ込んだ。身元のはっきりしない者は、決して入れぬことの無い部屋なのだが、どういう訳か連れて来てしまった。
「お礼がしたいの!」と、せがむ少女をホテルに連れ込む訳にもいかない。といって、このまま別れてしまうのも惜しい。いや、セックス云々ではない。何というか、今流に言えば“癒される”のだ。不思議なことに、気持ちが和らいでいるのだ。
「このドレス姿を、おじさんに見せてあげる。うぅん、見て欲しいの。」
 その言葉に、つい乗せられてしまった。そして部屋に入るや否や、少女は寝室に入り込んでしまった。俺はソファに腰掛けて、ビールを取り出した。実に美味い。普段と同じ銘柄なのに、今日のビールは格別だ。
 それにしても、あれ程ざらついていた心持ちが、今はどうだ!荒れ狂う荒波が収まり、今はさざ波、いやいや凪状態だ。散財をしてしまったが、まるで惜しくない。それどころか、今度はいつ会えるのか・・とさえ、考えてしまう。
「おっ、まっ、たぁ〜・・入ってきてぇ〜ん・・」
 少女の声がする。俺は吸い込まれるように、寝室のドアを開けた。驚いた!あの少女とは、まるで別人の少女、いや女が居た。
 切れ長の目、細い眉、スラリと鼻筋が通り、肉感的な唇、そしてそれらを支える細い首。俺がデートした少女とは、まるで違う。幼い顔つきだと感じていたが、中々に艶っぽい。チャイナドレスの魔力なのだろうか。佇まいも、それまでのキャピキャピしたものは消え、ぐっと大人の雰囲気を漂わせている。俺は思わず、息を飲んだ。
「ふふ・・どう?・・見違えたでしょう?・・これが本当の、レイコよ。」
 少女は、ゆったりと体を回した。ピッタリとした体の線に、少年っぽさはまるで無い。ピンと伸ばした背筋が、大人っぽさを醸し出している。更には腰の縊れも十分で、何よりヒップのラインが良い。むしゃぶりつきたくなる。スリットから見える脚も、見事だ。カモシカのように引き締まっている。かといって、筋肉だけと言う訳ではない。弾力十分に見える。
「うーん・・」
 言葉を失った俺は、唯々唸るだけだ。

「お・れ・い・よ・・」
 あの声だ、途切れ途切れの声だ。俺の琴線に触れ、悩ませ続けた声だ。俺は力なく、ベッドにへたり込んだ。少女の手がゆっくりと背中に回り、ジッパーを降ろし始めた。艶かしい動きの手が、ドレスを脱がせ始める。鎖骨が現れると、年甲斐もなく胸が高鳴った。小さな谷間が現れ、ツンと上向いた乳房が飛び出した。小ぶりではあるが、絶品の形をしている。乳輪が盛り上がり、その上に乳首が大きく勃起している。赤く火照っているそれは、触れれば火傷しそうな観さえある。
 更にずり下がったドレスから、縦長のおへそが出た。そしてドレスが手から離されると、神々しいばかりの女陰が現れた。無毛だった・・。小さな割れ目が、見事なまでにエロチックだ。話には聞くが、初めての経験だ。俺は思わず見入ってしまった。ふらふらと立ち上がり、少女の前に跪いた。そして吸い込まれるように、その女陰に口付けた。
「ふふ・・だめ・・」
 優しく少女の手が、俺を遠ざけた。ベッドに座らされて
「み・る・だ・け・・・」と、またしてもあの声が・・
 俺の股間は、はち切れんばかりに膨らんだ。ドクッドクッ!と、逸物に血液が流れ込む。と同時に、思わず射精してしまった。背筋に激しい快感の波が走り、頭の芯に雷が落ちたような衝撃を感じた。
「おじさん、エロ小説家の割に純情だね。ふふふ・・、カ・ワ・イ・イ・・」
 少女はゆっくりと、俺の傍らに座ってきた。脱力感に襲われてうな垂れている俺の頭を、そっと少女の肩に持たれかからせてくれた。不思議な感覚に襲われた。霞がかったような感覚なのだが、全神経がその一点に集中しているような。そしてその一点から暖かいものが、体全体に流れ出していく。体全体に行き渡ると、ふんわりとした物に包み込まれているような錯覚に襲われた。実に心地いい。ふと、思った。
”母親の子宮の中は、こんなじゃなかったか・・“
”トクッ・・トクッ・・“
 少女の心音が聞こえる。何とも、リラックスできる。少女がベッドに横たわり、俺を優しく抱いてくれた。その胸に顔を埋めながら、俺は少女の心音に包まれた。
“あれはいつのことだったか・・創作活動に疲れた俺を、麗子が抱いてくれたっけ。俺の髪を撫でながら、励ましてくれたっけ。”
「麗子・・麗子・・」
”がんばって・・大丈夫よ・・あなたはきっと成功するわ・・“
 少女の唇が、俺の唇に軽く触れてきた。熱い息が流れ込んでくる。甘美な味だ。とろけそうだ。少女の唇が、俺の首筋に触れる。あっ、乳首を含んでくれた。そうなんだ、好きなんだよ。麗子がよく含んでくれた。コロコロと転がし、そして舐めてもくれた。
 お願いだ、しゃぶっておくれ。熱く滾っている俺を、優しく含んでおくれよ。そう、そうだ。気持ちがいい・・よ・・

「お客さん、お客さん。着きましたよ、ここでしょ!」

みらくるワールド