其の六

 部屋に戻るとすぐに、バスルームに飛び込んだ。女の移り香を取りさねばならない。最低限のマナーだ。浴槽に湯を流し込みながら、シャワーを捻った。
“さぁてと、今夜はどうするか。”色々と考えてはみたが、どうにも定まらない。相手が人妻では、緊縛プレイと行くわけにもいくまい。第一、手順がまるでわからない。興味はあるのだが、未だ経験のない俺だ。一度SMクラブに顔を出してみたいとは思うのだが、中々にチャンスがない。
“田坂に、セッティングさせるか。ネタ探しだと言えば、一も二もないだろう。そろそろ、ピンクサロンも飽きてきたことだし・・”
「ピン、ボーン!」
 バスタオルを腰に巻いて、ドアを開けた。
「早かったじ・・」
 俺の声を遮るように、のぶこはむしゃぶりついてきた。立ちつくす俺の頬を両手で挟みながら、
「会いたかった、せんせっ。」
「欲しかったの、せんせいが・・」と、キスの嵐だった。完全に主導権を奪われた俺は、為す術もなくいた。そのあまりの激しさには、閉口した。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい。」
 やっとの思いで、のぶこを離した。一昔前に流行ったような、体にピッタリとフィットするワンピース姿だった。勃起した乳首が、くっきりとしている。指示通りに、下着を身につけていないようだ。
「恥ずかしかった・・」
 拗ねるような眼差しで、のぶこが俺を見上げた。少し落ち着きを取り戻したようだ。ドアの前に置いてあるレジ袋を手にして、さっさとキッチンに向かった。
「あまり期待しないでね、お味の方は。」エプロンを取り出すと、鼻歌を歌い始めた。
「折角だ。ワンピースを脱いで、エプロンを着てみなさい。」
 スケベ心が、ムクムクと湧いてきた。
「えぇっ!?せんせの、えぇっちぃ!」
 鼻にかかった甘え声を出しながら、エプロン姿になった。細い襟ぐりから乳房がこぼれんばかりだ。思わず、手を出しそうになる。
「ふふ・・」
 小さく声を出しながら、俺に背を向けた。お尻の割れ目が、何とも艶っぽい。ムクムクと、逸物が反応し始めた。既に一戦交えたというのに、この元気さはどうしたことだ。そう言えば、
”相手が代われば、何人でも頑張れるものさ。“と豪語する猛者が居た。若い内だけさと思ったものだが、どうやら本当だ。抱きしめたいという思いをグッと堪えて、バスルームに戻った。
 湯船に浸かりながら、のぶこの後ろ姿を思い浮かべた。つい、顔がにやけてしまう。締まりのない顔つきをしていることだろう。
「せんせっ!体が、冷え切っちゃって・・。暖めてくれます?」と、のぶこが入ってきた。
「ああ、勿論だ。おいで!」
 乳房と秘部を両手で隠しながら、おずおずと入ってきた。勢いよく湯船から出た俺は、のぶこを抱き寄せた。
「何だっ?火照ってるじゃないか、うん?」
「意地悪うぅ!」
 両手を胸に宛いながら、甘えた声をあげてきた。
「良く来たね・・」などと柄にもない言葉を、のぶこに掛けてしまった。のぶこの醸し出す匂いに、酔ったようだ・
「逢いたかった、せんせぃに・・」
 涙声になったのぶこの声に、尋常ではないことを悟った。初めて来た折りの、のぶことは明らかに違う。

「どうした?何か、あったのか?」
 泣きじゃくり始めたのぶこは、俺の胸の中で心なしか震えている。
「喧嘩でも、したのかな?」
 のぶこの目から溢れる涙を拭ってやりながら、その目に軽くキスをしてやった。
「抱いて、抱いて、せんせっ!」しがみついてくるのぶこを、俺は力一杯抱きしめた。
「もっと!もっと強く、抱いて!」
 暫くして落ち着きを取り戻したのぶこは、俺の胸に寄りかかながら、小さく呟くように問いかけてきた。
「せんせっ。のぶこって、淫乱?」
「あぁ。十分に、淫乱だよ。」
「そんな・・」
 のぶこの体が強張ってきた。異変に気が付いた俺は、のぶこの話をじっくりと聞くことにした。どうにも今夜の俺は、変だ。他人の生活などまるで無頓着な俺なのに、だ。
「どうした?何が、あった?話してごらん、全部。」
「はいっ。実は、主人に・・」
 俺の治療が功を奏して、性の歓びに目覚めたのぶこは、毎夜の如くに旦那を求めたらしい。まぐろ状態だったのぶこの、突然の豹変だ。当初は旦那も驚いたらしいが、そこは若い男だ、狂喜したらしい。日中から、激しく求め合ったという。俺の教え通りに、受け身だけではなく自らも攻めたらしい。乳首を噛んだり、逸物を口に含んだり、果ては肛門を舌先で刺激したという。若い男では、一たまりもないだろう。案の定、あっという間に果てたという。
「商売女じやあるまいし、何だそれは!この、淫乱女が!浮気でもしたのか!」
 突然、怒り出したという。照れ隠しもあったろうが、本気で怒り出したらしい。それはそうだろう、確かに。昨日までまぐろ状態だった妻の、突然の豹変だ。変に思わない方が、不思議だ。“週刊誌を読んだの”と弁解したらしいが、信じる馬鹿は居まい。一瞬、俺のことをばらしたかと杞憂したが、隠し通したようだ。
「主人ったら、私を責めるんです。『こんな淫乱だったとは、思わなかった!誰だ、相手は!』って。勿論、否定しました。口が裂けても、先生のことは話せません。先生のご本を読んだって、言い続けたんです。もう疑ってはいないようなんですけど、私を避けるようになって・・。私、主人を愛してます。だから、主人が歓ぶと思って。でも、今では・・。お布団も別々になっちゃって・・。先生のせいなんですよ。体が疼いて、仕方が無いんです。主人の布団に潜り込んでも、背中を見せるだけで。」
 そしてその日以来、セックスが途絶えてしまった。それどころか、遠距離の仕事を多々受けるようになった、と涙ながらに訴えてきた。察するに、旦那の方がセックス恐怖症になったか?まぁ恐らくは、唯一優位にあった性行為の主導権を握られて、戸惑いの気持ちが起きているのだろう。早晩、元の鞘に戻るはずだ。女の方から折れれば、すぐにも仲直りができるだろうに。しかし俺は、敢えてそのことには触れなかった。以前の俺ならば、親切心からではなく教えたろうに。女を組み敷くことに、快感を覚える俺だ。半ばレイプ気味のセックスを求める俺なのに。
 俺は、のぶこの話を折った。興ざめだ、これじゃ。
「別れてしまえ!旦那に宣言しろ!嘘で、良いんだ。旦那が、慌てるさ。それで、目出度し、目出度しだ。『貴方を愛してるからこそ、なのに。』と、言ってやりなさい。それで、元の鞘に収まると言うもんだ。心配ない!主導権を奪われて、あたふたとしているだけだ。まだ、子供なんだよ。母親のような気持ちで、接してやれば良い。旦那とのセックスに満足できなければ、俺の所に来れば良い。」

「大丈夫でしょうか・・」
 不安げに言うのぶこだったが、遮るようにその唇に吸い付いた。のぶこの髪を掴み、頭をグイッと後ろに反らせたが為に、苦悶の表情をしている。それが又、艶っぽく見えるから不思議だ。更に後ろに反らせると、のぶこの体が滑り、湯の中に沈んでしまった。
これでは、苦痛以外の何物でもないだろう。やむなく、湯船から出ることにした。しかしのぶこの表情には、あろうことか愉悦の色が見える。どうも、マゾの気があるように見える。こりゃあ、本格的にSMの教室(そんなものがあるかどうか、分からんが)に通わなければいかんぞ。俺に促されるまで、のぶこは陶酔感に浸っていた。どうも、湯船の中が良いらしい。渋々といった様子を見せる。仕方なく、俺の首に手を回させた。
”重い!“
 体に力を、まるで入れていない。肉付きの良い臀部に手を回すと、俺にしがみついてきた。のぶこをバスタブから抱え上げると、お湯が滴るままに、バスルームを出た。体を拭くこともせずに、そのままベッドになだれ込んだ。ベッドに崩れ落ちると同時に、のぶこに体を反転させられた。
「せんせっ、好き!大好き!」と、体の水気を口で吸い取り始めた。くすぐったさの中、得も言われぬ快感に襲われた。しかしすぐにそれも止まってしまった。少し目を開けてみると、横たわったままで天井を見つめている。
「どうした?」
「先生、ずるい!のぶこを食べてくれなくちゃ!」
 拗ねた表情を見せるのぶこに、一層の愛おしさが込み上げてきた。
“いっそのこと、別れさせるか。俺の伴侶にしても、良いじゃないか。”
 ふとそんな思いに、駆られた。
「よ〜し!うお〜ぉ!」半ば乾いてしまった肌の水気を、吸い取りにかかった。オーバーに音を立てて吸い取った。終いには、吸い取るというよりは吸い付いた。
「くすぐったぁいぃ!せんせっ。」体をくねらせて、のぶこは転げ回った。のぶこは嬌声を上げながら、右に左にと転げ回った。
「こら、こら。逃げちゃだめだぞ。」
「だってぇ。」

仰向けになったのぶこは、甘えるような声を出した。
「せんせっ。のぶこの、おっぱいを食べて。」
 俺は、のぶこの手を握って横にグッと広げた。そして徐ろに、
「よーし。それじゃ、サクランボを食べるかな。まずは、ちょっと舐めてみるか。それとも、一気にかぶりつくかな?」
「う、う〜ん。どっちでも良いから、早くうぅ。」
 のぶこの胸は、大きく上下している。これから導かれるであろう恍惚の世界を、心待ちにしているようだ。俺は大きく口を開けると、思いっきりのぶこの乳房にかぶりついた。半分ほどが口に収まった。お世辞にも巨乳とは言えないが、張りのある乳房の含み具合が良い。勢いよく吸い込み、歯を立てることなく唇で揉みし抱いた。のぶこの口から嗚咽が漏れる。口の中一杯に乳房を含みながら、舌先で乳首を転がした。快感の波が激しく押し寄せるらしく、のぶこの指が俺の指を激しく掴んでくる。少しでも力を緩めると、押し戻されそうになる。
 ベッド脇のサイドボードにある紐で、のぶこの手首を縛った。嫌がる素振りも見せず、為されるがままだった。やはり、Mの気があるようだ。このままベッドに縛り付けようかとも思ったが、止めた。もう少し乳房への愛撫を続けることにした。何せ体力がいる。未だ俺自身が、少し脱力感に襲われている。
「せんせっ、どこ?どこにいるの?」
 朦朧とした意識の中で、俺の姿を見失っていたようだ。
「ここに、居るぞ。のぶこを抱い、、」
 言い終わらぬ内に、のぶこに口をふさがれた。激しく舌が動き、俺を貪ってくる。俺の顔を両手で挟み込むと、額・目・鼻と所かまわず舐め続けてくる。体を反転させると、首筋・胸・腹へと舌を這わせ続けてきた。しかしこのままでは、早晩射精の瞬間を迎えてしまう。それはそれで良いのだが、男の沽券に関わる。嬌声を上げながらるのぶこだが、次第に俺の心は冷めていった。あれ程愛おしく感じていたのぶこに、何の感情も抱かなくなってきた。射精の瞬間が近づきつつあると言うのに、快感が無いわけではないのだが、どこか冷え冷えとしてきた。突然、耳に声が聞こえた。
「ス・ケ・ベ・・」あの少女の、声だ。この部屋に居るはずがない、あの少女の声が。

 どうにも、困ったもんだ。あれ以来、事ある毎に少女の声が耳に響くようになってしまった。CDのボリュームを最大限に上げても、はっきりと聞こえてしまう。考えてみれば、声などは聞いた覚えが無い。どうしたって、聞こえる筈が無いのだ。車の中に居た俺に、交差点の角に立っていた少女の声が聞こえる筈がない。とすれば、幻聴なのか。そもそも、本当に“ス・ケ・ベ・・”と言ったかどうかも、怪しいもんだ。俺の錯覚かもしれんのだ。友人か、男友達に話しかけていたのかも、しれないのだ。たまたま、俺と視線が合っただけなのかも・・。俺は、そう思いこむことで忘れようとした。しかし、忘れようとすればする程、声だけでなく唇の動きが脳裏に走る。
 待てよ。そう言えば、全体を思い出せない。どんな髪型だった?どんな目だ?鼻は?背格好は、どうだった?何も思い出せない。官能的な、その唇だけが脳裏に浮かぶ。それじゃ、どうして少女だと分かるんだ?いやいや待て、落ち着いて考えるんだ。車が動き出した時、俺は後ろを振り向いた。その時、手を振っていたじゃないか。そうだ、確かに手を振っていた。うん?曜日を聞いたぞ、確かに。そうだ、女子高生に見えたんだ。だから、運転手に確認したんだ。いいぞ、いいぞ!段々、思い出してきた。そうそう、ほくろがあった。目元だ、右か?左か?・・、どっちでもいい。とに角、ほくろがあった。
 俺は、書きかけの原稿そっのけで、その少女のことを考えてしまう。こんなことでは締め切りに支障をきたすのだが、どうにもならん。たまらず、パソコンから離れた。時計を見遣ると、そろそろ午前零時になる。冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。D社のアメリカンでなければいかんのだ。
「缶コーヒーなんて、どれでも一緒でしょうに。」と、田坂は言う。
「いや、だめだ!甘過ぎず苦過ぎずの、これでなければ。第一、量が違う。こいつは、たっぷりだ。」
「差し入れです。」と、N社の缶コーヒーを買い込んで来てくれた事がある。渋々飲んでみたが、意外に旨かった。少々甘気になるが、疲れている時にはぴったりだ。しかし俺は、頑としてD社のアメリカンにしている。尤も、田坂の差し入れには、N社のそれにさせてはいるが。
 ソファにもたれながら、喉に流し込んだ。気持ちが、ゆったりとしてくる。鼻の付け根を押さえながら、目を閉じた。と、案の定あの少女が浮かんできた。もう、諦めた。
「スケベ、と言うなら言えばいい。お前を思い浮かべながら、思いっ切りスケベになってやるさ。」
 コーヒーを片手に、パソコンに向かった。『新規作成』のアイコンをクリックして、真新しい頁を開いた。とりあえず、前半のさわりを書くことにした。

 小夜子は、恋人の前で陵辱しようとする男を、睨み付けた。既に、助けを呼ぶことは諦めた。恋人は、三人の男達に抑え付けられ、声を上げる度に殴られ続けている。もう今では、小夜子を見ようともしない。目を閉じてしまっている。
「良いねえ、その目。もっと、睨んでくれよ。ゾクゾクするぜ、全く。」
 低く冷たい声が、小夜子の耳元で囁かれる。男の手が、小夜子の乳房をまさぐり始めた。悪寒が、小夜子の全身に走る。
「いやぁ!」
 思わず、叫んでしまった。思いっ切り、男の頬を叩く。しかし、男はひるむ様子はまるで無い。むしろ、喜んでいるように見える。男の華奢な手が背中に回り、徐ろにワンピースのジッパーを外しにかかった。小夜子は、何とか体を捩って逃げようとした。しかし、恋人を抑え付けていた内の一人が、
「早くしろよ、健二。ほらっ、手伝ってやるよ。」と、小夜子の頭を抑え付けに来た。
「俺に命令するのか!」ドスの利いた声が、その男に浴びせられた。
「いや、そんな積もりじゃ・・」
「いいから、向こうに行け!」
健二に一喝された男は、
「分かったょ。」と、すごすごと引き下がった。
 小夜子は、一気に恐怖感に囚われた。血の気が引く思いの、小夜子だった。男は手早く、小夜子のワンピースを剥ぎ取った。高二しては、豊かなバストを持っている。自慢のバストだが、未だ服の上からですら、誰にも触られた事がない。恋人の伸郎にすら、拒絶をしてきた。処女至上主義という訳ではないが、己を安売りしたくないと言う気持ちが強い、小夜子だった。それが事もあろうに、こんな暴走族の男に陵辱されているのだ。実の所は、半狂乱の境地に居た。この場に伸郎が居なければ、恥も外聞も無く暴れたい。しかし伸郎に対して凛とした態度で接している手前、取り乱すわけには行かない。
「見事なもんだ。食欲をそそるぜ、全く。」
 健二は馬乗り状態で、型崩れのしない乳房を見下ろした。
“夢よ、これは。現実じゃないわ。今、ベッドの上に居るの。大丈夫。何事もなく、朝になるわ。今に、目が覚めるわ。夢よ、夢なのよ、これは。”目を閉じたまま、小夜子は必死に自分に言い聞かせた。
 健二の手が、荒々しくブラジャーのスナップを引きちぎった。激しい痛みが、小夜子を襲った。
「痛いっ!」
「痛かったか?そりゃ、悪かった。どこだい、ここか?」
 健二の唇が、胸の谷間に埋められた。乾いた感触の中から、ヌメヌメとした物が現れる。痛みを感じた箇所で、這いずり回る。思わず鳥肌が立った。更に激しい悪寒が走る。
「嫌っ!止めて!」
 他の者には聞こえない、呻き声にも似た声を出した。
「良いんだぜ、大きな声を出して。その内、喘ぎ声になるだろうさ。」
「誰が、そんな声、出すもんですか。この、けだも、、、」
 健二の唇が、小夜子の声を遮るように吸い付いてきた。強烈なタバコの匂いが、小夜子の口内に広がった。何とか逃れようと、激しく頭を左右に振った。閉じられた唇をこじ開けるように健二の舌が侵入してくると、小夜子は思わず歯をしっかりと合わせた。しかし健二の舌は、お構いなしに蠢く。健二の舌が、ネットリとそしてゆっくり、小夜子の歯茎を舐め回し始める。
 小夜子は更に激しく頭を振って、何とか健二から逃れ得た。しかし息を吸い込む暇もなく、健二の唇が襲ってきた。顎の両端を掴まれた小夜子は、歯を合わせることが出来ず、健二の舌の侵入を許してしまった。抵抗しようにも、両手首を掴まれている為に自由がきかない。健二の指が顎から外されると同時に、小夜子の舌が健二の口内に吸い込まれた。小夜子の舌を堪能するが如くに、健二の舌が蠢く。ピリリと辛みを感じつつも、為されるがままだった。小夜子の目から、涙が溢れ始めた。
“どうして、こんなことに・・。”
 どっぷりと暮れた中、公園のベンチで語らっていた二人だった。伸郎と交際し始めて、そろそろ二ヶ月が経とうとしている。一週間程前、やっと手を握ることを許した。
“今夜は、肩を抱かせてもいいかな?”と、やゃ薄暗いベンチに座ったのだ。恐る恐る肩に手を回す伸郎の、ぎこちなさを楽しんでいた。快活に話していた伸郎が、寡黙になった。
“いよいよ、ね。でも、今夜はそこまで。きっと、キスを求めてくるでしょうけど、だめ!ファーストキスなんだから。”
 そんな思いでいる、小夜子だった。伸郎にしてみれば、せめてキスまでは、と意気込んでいた。友人達の自慢げな体験談を、散々聞かされ続けている伸郎だ。
“小夜子は、学校のアイドルだ。そんな簡単には、行かないさ。”そう思うことで、自分を納得させていた。
 静寂の中、突然に轟音を響かせて二台のバイクが乗り込んできた。八の字を描きながら、爆走している。そのライトの中に、二人が浮かび上がった。
「ひょお、ひょお、お二人さーん!エッチ中かーい!」
「うひょお!まぶいじゃん、かぁの、じょお!」
 そんな声に導かれるように、後追いしてきた車の中から健二が現れた。
「行きましょ、もう。」
 小夜子は伸郎を促して、立ち上がった。そして彼らを避けるように、暗くはあったが、反対方向に出ようとした。四、五歩歩いたところで、一人の男に行く手を阻まれた。
「こっちは、暗いんだぜ。明るい所を歩こうよ。」ニヤニヤと、男が通せんぼをした。
「いいの!」
 小夜子は、語気鋭く言い放った。渋る伸郎を急かせながら歩こうとした時、背後から健二に肩を掴まれた。
「そっちは、危ないでしょ。ほらっ、そこに溝があるんだよ。そうだ!送ってやる。もう暗いしさ。さあさあ、お嬢様のお帰りだよ。」と有無を言わさず、車に連れ込んだ。
 ワンボックス型の最後部座席に押し込まれた小夜子は、伸郎を罵倒した。二人の男に挟み込まれている伸郎にしてみれば、嵐が過ぎ去るのを唯待つだけだった。公園内で揉み合った折りに、口の中を切ってしまった。口に宛ったハンカチに、赤い鮮血が染み出している。人気の少ない場所を選んだのが、今更ながらに後悔された。
「じゃあさ、ちょっとドライブしょうか。」小夜子の横に陣取った健二が、声を上げた。
「さんせーい!」
「夜の、はとバスでーす!」
「フライデー・ナイト・ヒーバー、だょーん!」三人の声が車内に大きく響いた。
 手慣れた手つきで、健二はワンピースを脱がせにかかった。乳房を鷲掴みにされて、小夜子は我に返った。自由になった片手で、必死の思いでワンピースを押さえた。と、突然に両手両足を掴まれた。伸郎を抑え付けていた男達の二人が、小夜子の元に来ていた。伸郎は、既にグッタリとしている。もう一人の男が馬乗りになって、抑え付けている。
「健二さん。俺、こっちを貰うわ。タイプなんだょ、この彼は。」
「好きに、しな。」
「じゃ、いただきます。」
「可哀相に、彼氏。ホモの道へ、一直線かもね。」
「強烈だもんな、哲は。」
「ひっ!な、何をするんですか。」
 伸郎の力無い声が、小夜子の耳に届いた。思わず見遣ると、うつ伏せになった伸郎に、哲が伸し掛かっていた。
「うぎゃあぁぁ!」
 伸郎の悲鳴が、小夜子の耳をつんざいた。耳を塞ぎたくなるような声だった。
「いやあぁぁ!」
 小夜子の声が、辺りに響いた。激しく手足をばたつかせるが、男達の手はひるむことは無かった。とうとう健二によって、パンティがずり下ろされた。キチンと手入れされた恥毛が、月明かりの下にさらされた。
「へぇ!ハイレグだったんだぁ、水着。」足を掴んでいる男が、呟く。
「見るんじゃねぇよ!花も恥じらう、女子高生だぞ。上を見てろ!」と健二が、笑う。
「そうだ、そうだ!てめぇだけ、良い思いすんなよ。」と今度は、両手を押さえ付けている男が、詰った。
「おい!もういい。離してやれ。お前ら、車の中で、マスでもかいてな。」
健二の命令に、二人は黙って従った。
「たまんないぜ、このおっぱい。えぇっと、何て名前だっけ?おぉ、そうだ。小夜子ちゃんだった。見ちゃったもんね、生徒手帳。○○学園二年A組だったよね。」
「お願い!もう、止めて。背中が、痛いの。チクチクするの。」
「おぉ、そうかい。背中が痛いのか。そりゃ、悪かった。じゃ、こうしてやるよ。」
 懇願調の小夜子の声に、健二は体を反転させて小夜子を上にした。足を小夜子の太股に巻き付けると、両手を腰に宛った。小夜子は渾身の力を込めて、健二から逃れようとした。上半身は健二から離れたものの、腰から下はしっかりと密着されていた。
 小夜子のお椀型の乳房が、円錐形に尖る。すかさず健二は、待ってましたとばかりにその乳房にむしゃぶりついた。ピンク色の乳首に歯を立てられると、思いもかけず電気が走ったように感じた。
「お前、初めてか?」
「だったら、何よ!」
「そうならそうと、言えよ。」
「だったら、離してくれるの!」
 
 キーボードを叩く手を止めて、生温くなったコーヒーを口にした。
”うーん、書き直すか。テンポが悪い。心理描写が多すぎるかも。田坂の奴、容赦なく『削ってください』だろう。確かに、しつこいかもしれん。俺の読者には、まどろっこしく感じられるかもな。まっ、それはそうとしてだ。この後は、どうするか。輪姦すべきだろうが、どうにも躊躇いがある。可哀相な気もする。・・、何を考えてるんだ!エロ小説だろうが。レイプ作品なんだぞ、これは。感情移入しすぎたかもしれんな、実際。あの少女を思い浮かべながらは、失敗か。俺らしくもない。あんな小娘如きに振り回されて。“
 携帯を手にすると、メールが届いている。
「夕方、です。よろしく!」

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