夜が静かに 明けていく、 氷の溶けた水が 温むように。 お前と二人 こうして歩いているけれど なぜだか無性に さびしいぜ。 朝が静かに 昇ってくる、 冷めたコーヒーの 香のように。 お前と二人 こうして座っているけれど なぜだか無性に かなしいぜ。 雲が静かに 流れていく、 色のない夕焼けが 広がるように。 お前と二人 こうして暮らしているけれど なぜだか無性に やるせないぜ。 唇を重ねても 肌を合わせても なぜだか無性に むなしいぜ。 |
はい、はい、はいぃ、ですう。 酔ってますよ、酔ってますうぅぅ。 ごめんなさいよ、ごめんなさいぃぃ。 お酒、ですか? そんなもん、飲んでませんよ。一滴たりとも、 飲んでません! って。 コーラは、飲みましたあ。 いっぱいぃぃ、飲みましたあ。 はいぃぃ、はい、っですう。high、です、今夜は。 ハイテンション、ですう。 “なんで?”って聞くの? ククク…ククッ…… “チュッ”がね、 “ブッ、チュウ”な、わけよ。 そんでもって 、“プニュ、プニュ”。 で、がんばって “ぺろぺろ、ペロペロ”だあ! |
煩わしい! 今日ほどうとましく感じられたことは、はじめてだ。 ねっとりとした熱い空気が体にまとわりついて、 不快指数100%だ。 今日の minako は変だ。はじめてだ、こんな minako は。 一体どうしたんだい? 「いまはらあいらいの、れてほれる?」 夜の9:00近くだ。まるでロレツが回っていない。相当に酔ってるな。 minako が指定した場所に行くと、 女子高生(かな?)が、地ベタ座りしてる。 「いゃあねえ、若い 車から降りるやいなや、飛びかかってきた。 酒臭い息が体の中に入りこんできた。 なんどか引き離そうとしたけれど、 がっちりと首に回された手は、ほどけなかった。 “こんなに力、強かったっけ?” それとも俺に、本気で引き離す気がなかった? |
23歳の minako。 お姉さんの minako。 看護婦の minako。 くりくり目の minako。 少し団子っ鼻の minako。 おちょぼ口の minako。 〇〇ちゃん似の かわいい minako。 ore の minako。 |
「晩ご飯、なに食べた?」 「さっき、何してた?」 「なんてテレビ、見てた?」 「お風呂、入った?」 「いつも、どこから洗うの?」 「シャンプー、なに使ってる?」 「トリートメントは、週何回?」 「ーーーーー?」 「*****?」 矢継ぎ早の問いかけ。 答える前に、次の質問が… 右腕にしがみついて、 しなだれかかる minako。 時折こぶしを突き上げる、 時折意味不明の嬌声を 張り上げる minako。 どうしたの、今夜は。 ただただ、戸惑うばかり…… |
のらりくらりと歩く俺の目に 緑の木々が飛び込む。チラホラと 紅葉した葉が、実にきれいだ。 が、立ち止まって見入ることはない。 minakoは留まりたげだったけれど 俺の声に急かされるように動いている。 神社仏閣巡りの好きな、minako。 閑静な場所の好きな、minako。 付き合うoreは、minako にベタ惚れか? |
「もっ、もう一度、もう一度言ってくれよ」 「病院…変わるの」 「そうじゃないって! そんなことはいい!」 「怒鳴らないでっ!」 「だから、どうすんだよ!」 「どうするって…」 「ああ、もう、じれってえ!」 「…………」 「なんでだよお! なんで…」 「ごめんね、ごめんね」 「行くなっ、行くなよ!」 「ごめんね、ごめんね…」 |
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元気してますか? わたしの方は、もう大変です。とに角猛烈に、忙しい毎日を送っています。 こんなことなら、きみの言うように、“来なければ良かった”なんて、ベッドに入ると つい、考えてしまいます。“逢いたい、逢いたいよー”なんて、枕を濡らしています。 ………… ふふふ、ウソよ、ウソ! ごめんね、電話できなくて。勉強することばかりで、まるで余裕がないの。“手紙は 書けるのかよ!”って声が聞こえそう。だってさ、電話で声なんか聞いたら、きっと 泣いちゃうもん。 早いもので、こちら kashiwara に来てから、もう二ヶ月近くになるのよね。我なが らよく頑張りました。そちらではベテラン(?)のわたくしめも、こちらではまったくの 新人扱いでね。怖〜い主任看護士の下で、指導されてます。“所変われば品代わ る”でさ、戸惑うことばかりです。 休日ゼロなのよ、実際のところ。自主研修という名の、そうサラリーマン的に言えば、 サービス残業があるのよ。はじめてだわ、こんなの。それでね、家庭持ちの看護士 だけは休みを入れるのよね。いっそのこと、結婚しゃちおうかな?あっ、ちょっと待っ てね。誰か来たみたい、これだから寮はイヤなのよね。 |
ああ、疲れた。緊急手術が入ったの。寮がさ、病院と同じ敷地内にあるなんて信じられるう? まあねえ、個人病院みたいなものだしね。 ねえねえ、どうして呼びに来たのかわかる? 真偽の程は? だけどね。男子禁制の寮に、連れ込んじゃったらしいの。でね、運の悪いことに今夜みたいに緊急呼び出しがかかったんだけどね電話に出なかったんだって。それからね、電話じゃなくお迎えなの。 交通事故だったけど、もう悲惨そのもの。ああ、やだ、やだ! きみも、気をつけてよ。 そうそう、朗報! ですぞお。少し先のことなんだけど、お正月にまとまった休暇を貰えることになりました。 ええい、控えおろう! な、なんとお、二週間もいただけるのであ〜る。 ああ、早く逢いたいよお! |
本音を言うとね、きみに来て欲しいの。 ここ kashiwara に来た理由の一つに、かの有名な kashiwara 神宮があるからなの。 知ってる?建国の始祖である、神武天皇がまつられてるの。十一月二十三日の祝日には でも…、だめね。きみは、だれか他の女の子を追いかけてるでしょうね。いいの、いいのよ。 わたしがここに来た訳、きみには分からないでしょう。 |
“もの言えば 唇さみし 秋の風”とか、なんとか。秋というのは、なんともの悲しいことでしょうか。 部屋中に貼りに張ったヌードポスターの、なんと色褪せていることか、はあ…… 先々夜、sirakawa 町までぶっ飛ばした。しょうがねえジャンかよ。 田舎は夜が早いんだ。明日ってわけにはいかないし。 なんせあっちは朝が早いモン。ore、六時なんて起きれないよ。 真っ暗闇の道は危ないからって、取引先のお宅に泊めてもらった。 五右衛門風呂って知ってる? はじめての経験でさ、もう、おっかなびっくり! でっけえお釜が風呂なんだぜ。 足元に丸い板を置くんだけど、バランス良く入らないとひっくり返りそうで。 でも、面白かった。 翌日は休みだったから、そこでのんびりさせてもらった。 帰ったところで、やることないしさ。パチンコやるぐらいなもんだし。 しっかし、この ore さまがさ、六時に起きたよ。六時だぜ、六時。 寝てられねえよ、もう。 鳥のチュンチュン鳴く声やら、家の人達のバタバタやら、うるさくてサ。 だけど早起きってのも、たまにはイイもんだ。 それとも、ど田舎のせいか? やっぱ空気が美味いわ。 実感したマジで。それに外に出てびっくりもんだわ。 右も左も360度、山、山、山だあ。 そういえばゆっくりした坂道だったような、気がする。 そんでもって下を見下ろすと、チョロチョロと流れる清水が集まっての、谷川があった。 気持ちイイー! これが nagara 川に流れ込んでるんだよな。 nagara 川といえば、素ン晴らしいものを見た。 ore 的には gifu は嫌いなんだけど━だって海がないジャンか! ━ nagara 川に、夜の nagara 川に映ったネオンサインと車のヘッドライト。 inuyamaで見たときよりは一段低いけど、結構キタよ。 |
何だか知らないけれど、今までの自分が可哀相に思えてきた。 可哀相っていうか、アホじやないか! って思えてきた。 minako のせいだかんな! 手当たりしだいに読みあさってる漫画本が、 ベッドの脇にうず高くなってる。 好きくなかったんだゾ、漫画なんて。 みんなに笑われちゃうジャンか、ore 。 まるで縁のなかった漫画喫茶なんかに入りびたりはじめちゃって。 カッコわるう。 部屋中に貼ったポスター、天井にまで貼ってある――ベッドに 寝転がっても見れるようにって。 何でか? はあ? そんなもん、そんなもん。 あれに決まってるジャン! あれのためだよ、そんなもん。 エッチだとお! |
それがね。 あの川を見てたら、inuyama 城でのことが思い出されて…。 藤棚の下で、ベンチに座ったジャンかあ。そうそう、あの寒い 夜だよ。ore のダッフルコートを二人でかぶった、あの夜よ。 忘れたの? あのキスも忘れたの? とろけるようなあの感 覚、絶対忘れない。 “ああ、これが大人のキスなんだあ…。 秀吉の好きな、お茶々さまとの口吸いなんだ…、なんてね” 川の流れに気をとられながら、夜の川原を二人して歩く。石に つまずく minako を、そっと ore が支える。脇に入れた手に 柔らかいものが当たって、minako の頬がポッと桜色に……。 いいジャン、いいジャン! すごくいいジャン。 “苦しゅうないぞ、もそっと近こうよれ”な〜んちゃって。 正月かあ、はあ〜長いなあ。 |
タバコ…… その煙り、白? 灰? 光によって、色が変わる。 雨にも似たもの。 ……酔わせてくれる。 肺にグッと吸い込む。 ガツーンと、脳をマヒさせる。 ボーッとなる景色、 すべてがボケる。 体が脱力……昇天! ore の欲するマヒ たったタバコ一本で、 コレ。 SAKE。 酔ったら、 酔っ払ったら、 …… 怖い。 |
やっちゃったあ、あ〜あ、やっちゃったあぁぁ…… ♪義理と人情を 秤に掛けりゃ 義理が重たい♪ ごめん、ホント、ごめん。 ore の言い訳も聞いてくれえ。 麻雀たるもの、四人そろわねば成立しないゲームなんです。 いや、五人そろうはずだったんです。そして、オレは抜ける 予定だったのよ。 ところが、待てど暮らせど、来ないのよ。 しかも、しかも、いつも負ける ore が その日に限ってどういう訳かツキまくり。どうにも抜けることが できずでした。そうこうしている内に、かすかに聞こえる除夜の 鐘。焦ったよ、マジで焦りましたよ。 hida の高い山での初日の出、ore だって楽しみにしてたんだ から。 「おいっ! ラーメン喰いに行こうぜ」 「若けえんだから、とーぜんラーメンっしょ」 訳の判らん理屈をこねられて、いざ国道沿いのラーメン屋へ。 ore 的には、やっぱ日本そばがいいと思ったんだけど、口には 出せなかった。 |
でもよお、 よくよく考えたら、オレ、minako の実家を知らないんだワ。 seki 市だってことは知ってるけど、詳しくないぜ。いつも、 通り抜けるだけだモン。 しっかしよお、すっごい変わりようだぜ。メインストリートは、 悲惨だネ。ニュースでも結構流れるけど、シャッターが降り てるもんナ。そのくせ外に行けば行くほど、でっかい建物が あってサ。駐車場に車が溢れてるぜ。 近所の婆ちゃんなんか、泣いてるよ。車持ってないから、隣 のおばちゃんと一緒に買い物行ってる。これが、婆ちゃんの 負担になってるらしいんだ。時間だよ、時間。そのおばちゃん に合わせなくちゃだめジャンか。決まった時間ならいいけど、 バラバラらしいんだ。仕方ないわナ、実際のところ。 |
そんなことは、どうでもいいんだよ。どうすんだよ、 どうすんだよお。 実家の電話番号知らねえし、知ってても電話かけ るのはなあ、ちょっとなあ…… ひとりか? syougatsu を。 |
ククク…ケケケ…… ホントのところはさ、約束してるんだよお、toyokawa稲荷に、 ヒヒヒ……、kachiko と、行くんだよ。 学校の後輩なんだけど、すこし暗い おとなしい性格でよ、minako とは正反対だナ。毎日毎日サ、 ステーキじゃ飽きるだろうが。味噌汁に漬け物も喰いたいよな。 もっとも、ホホホで、ガハハハ、かな? ナイスバディ、なんだぜ。 服着てたら、まるで分かんないけどナ。 uwaki? ナンデ? ore、いつだって、だれだって、マジだよ。 |
な、な、なん、なんなんだよお! イミ分かんねえ! なんなんだょお! minako! minako! minakoooo! ふざけてんだろ? そんなこと、ありえねえ! |
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結婚だあ? 見合いしたあ? いつう? 正月う? オレっちが迎えに来てたら、 取りやめた、だってえ? ………… ちがう、ゼッテーちがう! オレっちなんか、カンケーねえよ! そんな minako じゃ、ねえ! 上等ジャン、好きにすればいいジャン! オレっちは、ぜんぜん問題ねえわサ。 |
……くん きみを呼ぶときには、いつも「くん」でした。 年下だったから、ついつい、「くん」って、呼んじゃった。 きみの、男としてのプライドも考えずに、ひょっとしてわたし きみを、きみのことを馬鹿にしてた? ごめんね… ごめんね ほんとに、ごめん…… もうすぐ、二十四になる、minako です。 我が家では、家訓としてね、二十四歳には嫁入りすることになってるの。 お母さまも、お婆さまも、大ばばさまも。 きみがあの日…… いいの、いいのよ、もう。 きみは、まだまだ、子どもだったんだ。 そのことに、気が付かなかったわたしだったのよね。 もし、もしまた会うことがあったら、 「よっ!」って、声をかけてね。 そしたらあたし、「元気?」って、応えるから。 |
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へっ、へっへへへのへエ! ホッ、ホッホホホのホお! けっ、けっけけけのけエ! うっ、うっうっうっううぅぅぅ ぐふっ、ぐふっぐふっぐうぅぅ minako…minako…… |
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