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わかっている、わかっているさ |
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昨夜、夢を見た。 bokuをあざけり笑うがごとくに、見も知らぬ男に 抱かれていた。 一糸まとわぬ姿で、抱かれていた。 bokuは、黙って背を向けた。 bokuは、声を殺して涙した。 意気地なしのbokuを、 笑いたければ、笑うがいい。 でも…だれ? |
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悪友の頼みで、その友人であるSくんのデートのお手伝いをすることになった。 奥手の男子で、はじめての彼女らしい。 まあたしかに、言っちゃ悪いけど、見てくれがイマイチだ。 三枚目の役を演じるわけでもなく、なんで彼女ができたのか ほんと、不思議だ。 女の子は、名前を、teiko というらしい。 繁華街を歩いているときに、落とし物をしている彼女の 探す手伝いをしたんだとか。 悪友もいたらしいけど、やたらと、彼に話しかけてきたらしい。 「 なんて、一緒にお茶をしたんだって。 「友だちと待ち合わせをしていたんですけど、 来られなくなっちゃって。 帰ろうって思ってたら、後ろから来た自転車にぶつかっちゃって。 あたいが悪いんです。 急に振り返っちゃったから」 すこしケバい化粧だったらしいけど、 彼氏が友だちをを連れてくるから、 きめたメイクにしろって、言われたらしいんだよ。 喫茶店では、悪友そっちのけで、Sくんの方に話しかけてきたんだって。 で、馬鹿らしくなった悪友は帰ることになり、 Sくんも舞い上がっちゃってて、引き留めもしなかったらしい。 それで、琵琶湖までドライブするという話になり、 今日、免許を持ってる俺もかり出されたってわけだ。 そのSくんは無免許なんだって。 もちろん、車なんか持ってない。 悪友も持ってないし、そこで 俺の愛車であるマツダのキャロルの出番に。 正直のところ、4人ではキツいかな? とおもったんだけどさ。 拝み倒されて…… それにしても、Sくん、なにカッコ付けてんだか。 |
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teikoちゃんはと言えば、これが満面に 笑みを浮かべて、boku を迎えてくれた。 ええい、もう、思いっきりピエロになってやるう。 本音を言えば、 “ちょっといいなあ、かわいいなあ”、だ。 Sくんとの会話が弾まなくて、あくびをかみ殺しはじめちゃってさ。 自分でも驚くほどに、会話が弾んだ。 S君には悪い気がしたが、 ものの五分と経たないうちに、 完全に二人モードに入ってしまった。 笑い声が、車中に響き渡った。 遊園地に到着後は、 さすがに気が引けたbokuは、 体調をくずしたと言い訳して、車に残った。 実際、下痢しちゃったし。 慣れないことはするもんじゃない、実際。 気が付いたのは、三人が戻ってきてからだ。 ぐっすりと、眠っていたらしい。 夕焼けが眩しかったことを、覚えている。 その帰りの車中、S君と teiko ちゃん二人の、 楽しげな談笑がつづいた。 boku はと言えば、眠くもないのにフテ寝してた。 |
悪友とその友人と、そしてteikoちゃん。 人の好い(?)bokuは、その 友人のデートのお供をすることになった。 男三人に、女一人。 ちょっといびつですぞ、これは。 しかしあぁ、暇つぶしには なるだろうと、軽く考えて、 お供、してしまった。 日本で一番大きい湖に出かけることに。 ほぼ二時間の、ドライブ。 小さな車だけれども、 いやいや、ちいさな車なればこそ。 どうしたことか、その友人S君、 ひと言もしゃべりません。 キンチョーの極みだね、あれは。 なにせ身体がピッタリとくっついちゃってる。 teiko ちゃんも、困り顔。 見かねた悪友が、よりにもよって、 このbokuに座を盛り上げさせようとする。 一日を運転手に徹するつもりだったこのbokuを、 後ろに鎮座する teiko ちゃんの となりに座らせた。 S君の表情をうかがうと、 何やらホッとした表情を見せている。 気疲れしてたみたいだ。 |
なんだ、なんだ、なんだあぁぁ! どうして、こんな手紙が届くう? ━ あたしのこと、覚えてますかあ? ちょっと、会いたいんだけど、時間とれます? teiko 時間はあり余ってるけど、どういうことだあ? 日曜日のお昼、出かけちゃった。 まっ、いいか。なんか話があるみたいだし。 Sくんとのことかな? なんて軽く考えて。 |
小さな石を投げたら、大きな波紋が広がった。 良いにつけ悪いにつけ、 それを投げたのは、君。 男の子が、蛙に向かって石を投げた。 蛙は、言った。 “坊ちゃん! あなたにとっては戯れ事でも 私にとっては、生死の問題です。” 偽りの優しさよりも 心から憎んで欲しい そう言いつつも、心の底では慰めを待つ。 |
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teiko! 魔性…… 恐るべし、17 歳! 「こんにちわ! ごめんなさいね、急に呼び出したりして。 どうしてもあなたと、お話したかったの。お詫びしたかったの」 どう考えても、年下の者に対する話し方だ。 もうすでに社会人としてひとり立ちしている、女性と呼ぶべきか? テレフォンアポイ…なんだあ? 舌をかみそうだ。 要するに、電話勧誘してるわけだ。 黒電話なんかない boku のアパートには縁のないことだ。 なるほど、だから大人びた話し方をするんだ。 この間とは、まるで違うんだもんナ。びっくりだ。 一体どっちが、ホントの teiko さんなんだろう。 あれれれ、さんなんて付けちゃった。 |
“それにしては、楽しげに話しこんでたじゃないか!” 心の中で、boku は呟いてた。 しかし口にすることはできない。 あの時 boku は、眠っていたのだから。 「でもね、傷つけるわけにはいかないじゃない。 お二人のお友だちに悪いしね。 わかってもらえる? 帰り、たぬきねいりしてたでしょ? あたし、すっごく気にしてたのよ」 何もかも、お見通しってわけだ。 それにしても、まだたしか、17歳だよな。 見えないよ、マジで。 それに、なれなれしくしすぎるよ。 デートってわけでもないのに。 えっ! これっとして、これって、デートなのか? 「ねえねえ、こんどは、ふたりだけで行こうねえ。 ということで、今日は…映画にしない? どんな映画が好き? なんでもいいよ、teiko わあ」 正直、嬉しかった。 boku にしても、 teiko のようにグイグイと引っ張る女の子は初めてで、 新鮮だったから。 いやいや、本音で言うと、好きになっていた。 「ククク……、どっちがいい? 清楚な女の子? 悪魔的な積極女子? どっちでも、boku さんのお好きな teiko になって、 あ、げ、る、ふふ…」 上目遣いで、boku をからかう。 |
体が、カッと熱くなった。 “しっかりしろ、オレ!” 「べつに、お詫びなんて…」 「だってさ、気を悪くしたでしょ? S君と仲良く話し込んだりしてえ」 「そ、そんなことあるわ…」 「いいの! わかってるからあ」 teikoの指で、bokuの唇がふさがれた。 ビックリしたけど、なんだか甘い香りがした。 「そっちに移るね」 とつぜん、teikoがbokuのとなりに移ってきた。 そしてピッタリと、体をくっつけてくる。 さっきの甘い香りが、boku の体全体を包みこんでくる。 「boku さんね、あたしの、タ・イ・プ、なのよお。 S君はね、だめえ! どうもね、ああいったナヨナヨ系は 生理的に受け付けないのお」 bokuの返事を待つことなく、 teiko は手を取って立ち上がった。 渋々、boku も立ち上がったけれど、 内心では笑いをかみころすのに精一杯だった。 |
おゝ愛しき人よ、ぼくは君に何を与えよう。 この燃え盛る胸の炎を君の胸に? いやいや、その炎は、 冷たく閉ざされた氷の心をきっと溶かし、 君に火傷を負わせることだろう。 溢れ出る生命ちの水を君の唇に? いやいや、その水は、 硬く閉ざされた鉄の堤をきっと突き破り、 君を溺れさせてしまうことだろう。 ほとばしる愛のことばを君の耳に? いやいや、そのことばは 頑なに悪魔の声を聞く蝸牛を壊してしまい 君を無音の世界に追いやってしまう。 おゝ愛しき人ょ、ぼくは君に何を与えよう。 君の求めるもの、全てをぼくは与えよう。 この生命ちを!と言われれば、 喜んで我が胸に恋の剣を突き刺すだろう。 だけど、 これだけは言わないでおくれ。 それを聞くや否や、ぼくは 地獄の、真っ赤な業火の中へと落ちる。 “わたしの前から 消えて!” |
むせかえるタバコの煙りに そっと涙を流す 少女 朝の海辺に流れ着いていた 貝がらを 少女はひとり見つめ また涙を 流した |
teiko! あの日から、まだ一週間と経っていないのに、もう、ひと月もふた月も 会っていないような気持ちだ。 あの日のことを思い出すだけで、胸がドキドキする。初めてのことだ。 何もかもが、初めてのことだ。 “甘美” 言葉としては、知ってはいたけど…。 “妖艶” teikoのために、造られたことば…。 “ウブ” bokuのために、用意された…? 何という映画だったっけ? 忘れちゃったよ、ほんとに。 と言うよりは、観てなかったような気がする。 「どうして?」なんて、言うのかい? こっちこそ、“どうしてbokuの手を握ったの!”って、言いたい。 細い指がbokuの指にからまり、まるで蛸の吸盤のように吸い付いてきた。 ごめん、ごめん、表現が悪いね。でも、まったくそんな感じだ。 あったかい手だった、ホントに暖かい手だった。 手が冷たい人は心が温かく、手が暖かい人は心が冷…なんてこと、 teikoに限って! |
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遠足の前の晩、興奮して眠れない。 早く寝なければ、と焦れば焦るほど目が冴えてくる。 このまま起きていよう!と決意しても、結局はいつの間にか眠ってしまった。 掃除したいのに、キレイにしておきたいのに、だめ! 部屋の中を、檻の中をうろつく熊さながらに……。 大丈夫だろうか、迷わないだろうか。 バス停まででも、迎えに行けば良かったろうか。 「コン、コン、コン、コン…」 杞憂に終わった。 teikoが、来た。 |
ひと通り、掃除が済んで… いつの間にか、日が暮れて… 薄暗くなった部屋の中で、boku は放心状態にいた。 ベッドの端にふたりして座り、boku はされるがままだった。 teiko は boku の指を、もてあそんでいる。 指を絡ませあいながらときおり上目遣いで、boku の反応をたしかめている。 「boku ちゃん、女性を知らないんだ」 嬉しそうに、boku に話し掛けてくる。 boku は、返事ができないでいる。 |
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闇夜 蒼い月に吠える われた音をがなる 壊れたトランペット 街角の騒音にも似た その音に マッチ箱の家々に 灯りがともる 一家団欒の始まり 笑いが弾ける そして 月の微笑 |