カコ編

Kako!

きみからの最後の手紙は いつだったろう。
ぼくの最後の手紙は いつだったろう…
こんなに永い間 途絶えたことはなかったね。もう ふた月以上になるんだよ。
毎日のように 手紙を投函し合っていたこと もう忘れた? 
一日返事が遅れると、きみの手紙が 郵便受けに入ってる。
慌てて手紙を書くと また きみの手紙が…
時として 頓珍漢なことを お互いに書いていたね。

“もどかいしね…”
いつも書いてある 最後の〆だ。せっかち過ぎるんだよ、きみは。

独り暮らしのぼくにとって 黒電話を持つことは 経済的に苦しい。
それを知るきみは、毎月、沢山の切手を送ってくれる。
“電話料金に比べれば安いものよ” そう言うきみ。
“気にしないで…” 優しいきみ。
甘えてしまった ぼく。

ぼくって男は… 吾が事ながら、大人なのか 子どもなのか ……
他人のことは良く見えるのに 自分のことはまるでだめ。見えない。
そしてその事からの失敗が ぼくを後になって 苦しめる。

いま思うことは
“やはり 逢えば良かった” って こと。 
この目で この体で 君を感じるべきだった。

大人……結局のところ 狡猾(ずる)い ということかなあ。

いつからだろう 傷付くことを畏れはじめたのは。
高校を卒業して きみは大学へ。
ぼくはすでに 社会人。高校中退のぼくには 社会の目は冷たかった。

バイト生活に明け暮れる毎日。
“夢を追い求めるためだ…自由な時間が欲しい!”
“仕事に束縛されたくない! 拘束されたくない!”

ぼくの声に きみは 賛辞のことばを返してくれた。本心なの?
“未来の大小説家 目指して頑張って!”
しゃかりきになって 毎晩書きなぐりつづけた。
バイトが終わっての深夜 夜明けまで。
空が白々とする夜明けまで 書きつづけてる。
中指のペン蛸が 自慢だ。


きみは今 能 に夢中なんだね。
ゼミの教授に誘われて 『松風』 という演目を鑑賞したとか…。
女性がシテ(主役)の演目で、幽玄の世界に浸った と、嬉々として報告してくれた。
機会があれば、是非鑑賞して とも。

ぼくの手の届かない世界へ 旅立ったように思える。寂しい・・・

夢を追い求めているぼくだけど 無味乾燥ないまを過ごすぼくだけど 
“明日には…あしたには…” と、空想(おも)いつづけてる。
「五十歳になったら…死ぬよ!」
吹聴したぼくだけど 自分を戒めるぼくだけど 独り善がりのぼくだから 
効果なし! 腹立たしい!

父が言う
「早く所帯を持って 生活の重みを感じなきゃいかんぞ」
「あんたになんか 言われたくない!」
反発するぼくだけど 何故か ほ丶が緩んでしまう。
きみの笑顔が脳裏に浮かんだよ。

飲んだくれの父なのに 母はひと言の愚痴も言わずに パート勤めだ。
ぼくにしても、バイトで稼ぐ金を入れさせられている。
金額の多寡じゃなんかじゃない! 
子どもの稼ぎを当てにする親が 腹立たしいんだ。

「出てけえ!」
父のひと言で 独り暮らしを始めたんだよな。
高校中退が きっかけだった。
「小説家に なりたいんだ!」
口を滑らせたひと言に 思いもよらぬ激高だった。
後で母に聞かされたが 父も 若いころに役者を目指したらしい。
食い詰めた挙句に 母と所帯を持った とか。

結婚…憧れは ある。
でも 不安な思いが強いんだ。
経済的なこともあるけど、それよりも 自由を奪われることをれてしまう。


最近 “死” というものを 意識し始めました。
“自殺”とか言った具体性のあるものではなく、抽象的・観念的にえているんだ。
死に至るまでの心理やら 自殺を選択するとしたら その動機・環境・事件等々…

なぜこんなことを考えるに至ったかについては 薄々感じているとは思うけれども
逆療法という奴でして “生きる” という目的を 見出そうと思ってね。

小説は好きだ。書いていて楽しいよ。
だけど、それが 生きる 目的だとは思えない。
それが証拠に 以前のように
“書きたいものが書けたら それで死んでも構わない!” とは思えなくなってきた。
まだ何かに対して 未練がある。
それが何なのか…… That’s question.

きみは素敵な人です。だけどぼくは 追うことのないハンターでした。
ぼくには 悲劇でした。
巷に溢れるバイタリティー そのものに例えるなら 
それは新しい劇のスタートだと
思える。

悲しみは駆け足でやってきて また 駆け足で去って行きそうだ。

 なんでだ? なんで、詩を紡ぐようなことばづかい?

術家の真の仕事は、一つの経験を創り上げること。
その発展の過程においては常に変化して動いてゆくが、
しかもその知覚においては一貫している、そういう経験を
創り上げることである。
                             (デューイ)

昨日、文集が届きました。
ひなたぼっこをしながら、先ず boku と kakoi の作品を読みました。
つづいて、emajou さんの詩を 音読しました。

ひなたぼっこもさることながら、久しぶりにあなたに会ったような、充実感にあふれた
まったく幸せな 昼下がりのひと時でした。

ダンスパーティ
いつもそうですが、夕べの「壁の花」は「壁の花」なりに満足していたようです。
何故…理由は、分かりすぎるくらい分かっています。
みんな、あの人がいけないんです。

二時間近く棒立ち。一切のものを寄せ付けない表情。
あまりにも過去にわれすぎる自分が 哀れです。

 言葉と行動と、その二つにより 瞬間的に真心が伝わり 愛が生まれる。
 そこに時間が加わり、生活となり 愛が続く。
 そして 心のふれあいが 始まる。

どうして神様は kakoのようなものと あなたをお引き合わせになられたのでしょう。
神様のいたずら心?

文集を胸に、今しばらくの沈黙が欲しい。
 いつかあなたの目の前で くずれて行くもの。
 限られた世界を 脱してはいけない。お互いにこうして再び
 あなたを見つめられる幸せを 大切にしたい。


あなたが小説を書くそのそばで、薫り高い紅茶を入れトーストにバターを塗る。
暖かい、小っちゃな 部屋……

あたしは議論好きではない。
反発する前に、言いくるめられてしまうような、情けない、
最もあなたの嫌うタイプの女であろうと思っている。
さらに悪い事には、あたしが彼女の前に 一もなくく者であるということ。
文学? 神様のいたずら心?

人は誰も あなたやもう一人のあなたの作品を読んだ後、
あたしをまじまじと見つめて言う。

あなたは この人に 一体どのような手紙を書くのか と…
あたしはいつも 返答に困ってしまう。
自分でも 不思議でたまらなくなる。

……悪女になりたい!

男をひっかけ、気のありそうな素振りを見せて、
二、三度会って サヨウナラ……

こんなこと言ったら、
あなたはどんなに嘆き悲しむ ことでしょう。




    が さ     ま 交 で   だ   う な そ   そ   見   見 何     あ 
   っ  `て     た 流 も   か    °ら し   う   て   守 か     な 
   て 計 も     ふ が そ   ら     な て   い   い   る ず     た 
   も 算 冒     さ 必 の    `    い そ   う   た   と っ     っ 
   ら 高 頭     わ 要 た   ず     よ れ   気   い   い と     て 
   っ い か     し か め   っ     う が   持   ・   う 見       
   て 僕 ら     い ど に   と     に     ち   ・   言 守     ど 
    `の 驚     か う             決   を   ・   葉 っ     う 
   結 こ か     ど か 以   お     遠 し           が て     い 
   構 と し     う   前   友     く て   お         あ     う 
     故 て     か   の   だ     か あ   こ       適 げ     人 
      `申         よ   ち     ら な   さ       切 た     な 
     何 し     迷   う   で       た   せ       で い     ん 
     か 訳     う   な   い     そ の   る       な  `    で 
     あ な     ん       た     っ 重   人       け       し 
     る い     で       い     と 荷   な       れ       ょ 
     と  °    す       の     と に   の       ば       う 
              °       °    思      °       `       °
                                                   

   む    あ し と   夢   あ そ   そ   お 冗   わ そ こ   も   何 
 何 の 何   な た て   を   な れ   う   別 談   た の の   て   か 
 故 だ 故   た  °も   見   た に   い   れ じ   し ア 上   す   あ 
   ろ     の   暗   ま   の し   う   す ゃ   に タ     ぎ   る 
 彼 う 僕   顔   い   し   書 て   関   る あ   も ッ 何   て   っ 
 女   と   も   部   た   き も   係   時 り   ・ ク を    `  て 
 は   会       屋    °  方     で   の ま   ・ 率 し   体   ? 
 ・   う   陰   に       は ひ   は   わ せ   ・ 百 よ   が     
 ・   こ   う    `       `ど       た ん   ? % う   足     
 ・   と   つ   あ       巧 い   な   し !     を と   り     
 ・   を   で   な       妙 人   か   達       ほ ゆ   ぬ     
 ・           た       す  °  っ   は       こ う   程     
    こ   暗   は       ぎ     た    `      る の   の     
     ん   い   黙       る     筈   少       腕 で   あ     
     な    °  っ        °     °  な       で す   な     
     に       て                 く        `か   た     
     も       い                 と          °  が     
     拒       ま                 も              `    
                                                   
                                 で あ   け し 叫 わ あ   
                                 し な   れ た ぼ た な   
                                 た た   ど  °う し た   
                                  °は    `  と へ の   
                                       声   し の 頭   
                                   遠   が   ま 強 を   
                                   く   出   し い か   
                                   小   な   た 疑 け   
                                   さ   い    `い め   
                                   く   の   呼  °ぐ   
                                   な   で   び   る   
                                   っ   す   止   も   
                                   て    °  め   の   
                                   い       よ   は   
                                   く       う       
                                   ば       と       
                                   か       し       
                                   り       ま       
                                                   



あなたはごく普通の 男の子だったのかもしれない。
たゞ その文芸的な才能によって、
小説からでも飛び出してきそうな青年に仕上げ
わたしを誘っただけかもしれない。実際は?

失恋…… もう慣れっこになってしまったけれど、やっぱり辛いものなの。
だから、プレイボーイだと自称されるあなたに 
女の子をあまり泣かさぬようお願いしたいの。
それから 女の子のせいで小説が書けないなんて、
そんな悲しいことおっしゃらないでくださいナ。


kakoが 悩んでいる。そして さ迷っている。
二人は、立体交差で終わるかもしれないし、
衝突するかもしれない。

「会いたい…」

何度、思ったことか、告げたことか…
しかし今では、その時の 純粋であったはずの
心でさえ、疑っている。

xxxxx-joshidai 見たような気がする。
傍らに寺があって、そして白い鉄筋の建物。
何か冷たいものを感じた と記憶している。

Kakoは、俺が疑惑を持っている と言う。
kakoは、話したがっている。
しかしこの俺は、何を聞くべきかを 知らない。


--- 正しい原因に生きること
               それのみがい ---


19歳の誕生日 先輩からおくられた言葉
感情的になって、ついこの大好きな言葉を 忘れそうになる わたしです。

正しい原因に生きる……

この前は ホントにごめんなさい。あなたの著しい成長(変化?)と、
そのemajouさんとやらに……


  努  そ     小  わ     永     気  あ     け     あ  わ  
  力  し     さ  た     久     持  な     れ     な  た  
  が  て     な  し     に     ち  た     ど     た  し  
           胸  が           は  と     も     の  に  
  ど  そ     を        さ     持                 は  
  ん  の     痛  こ     よ     て  こ     わ     お     
  な  傷     め  の     う     ま  れ     た     心  わ  
  も  を     た  言     な     せ  以     し     の  か  
  の  な     か  葉     ら     ん  上     は     内  り  
  で  お        に           し        迷     が  ま  
  あ  す     ご                 お     っ     ・  せ  
  っ  た     存  ど           無  話     て     ・  ん  
  た  め     知  れ           意  す     な     ・     
  か  の     で  ほ           味  る     ど           
           す  ど           で        い           
           か              す        ま           
                                   せ           
                                   ん           
                                               


夕べ、あなたからいただいた沢山のお手紙を読み返しながら
「会いたい…」
その文字を見いだすたびに、心が痛みました。
いつにない新鮮な感動の中で“お会いしなければ……”
そう 思いました。

けれど、一夜明けたら またもとのあたし

進学した目的も、意味も分からない。
存在さえ認められそうにないこの大学で、自分は一体何ができるんだろう。
それも たった二年間のうちに……

群集の中の一人ぽっち
“空しい”
そっとつぶやいてみたら、涙が出そうだった頃、……

「君が一番だネ、純粋培養だ」
そう言って笑った 先生。
「わたしネ、何だか遊びに行ってるみたいなんです」
あたしの語調が、意外に明かるかったからだろうと思う。
だけど、本当はもっと深刻だった。

高校生、文通、自分一人の世界を作って楽しむ 言葉の遊び……
けれど わたし達のそれは、言葉の遊びとして、
片付けられるものだったかどうか…

あたし いつかあなたに こう言ったんだそうです。
あたし達 大人になったらどうするの? って。
あなたは眉をくもらせて
「淋しい青春を過ごすことに決めた」と、別れの手紙をくれました。
結局それは お別れにはなりませんでしたけれど……

わたし達 来年は もう二人とも 二十歳  二十歳って……・?





kako!

きみにはいつも、難解な手紙を送りつづけたね。そしてそのことで、
どれ程きみを、悩ませたことか…
「会えない淋しさを紛らすために……」
そんな言い訳をしながら、幾多の女の子と付き合ったことか…

『永遠の愛を誓うよ!』

言葉だけが、独り歩きしてた。


“人それぞれに道があり、己の決めた道を歩むことを、誇りとする”
てなことを、みんなが言うんだが、ぼくには道がどんなものか、分からない。

人それぞれの道…大ゲサというか、格式ばるというか、
少しオーバーだと思えて仕方がない。

人間、地球上の小っちゃな日本に、一億以上の人間がいる。
その一人一人の人間が、道を持っていることになるんだけれど…
いや違う! 道…どう言えばいいか、分からないんだ。

……やはり精神分裂症か?
今こうして手紙を書いているときに、隣の部屋からのテレビの音に耳が動くし
道路を走る車のエンジン音に、耳を傾けたりもする。

集中できない…でもない。
何故かというに、この二三行書いた文については集中していたから。
思考力の鈍り……疲労ですか、やはり。

本当は手紙なんて書きたくない。言葉もイヤだ! 会話でさえ、億劫なんだ。
……疲労?

この間、映画を観て来た。名画座といって、古い映画ばかりを上映している。
「春のめざめ」という、イタリア映画だった。
海辺の村に住む、妖精のような女の子。少年が、垣間見た裸身。
慌てて身をぼろ切れの服で包む…。そして……

ポスターに、そう書いてあった。でも残念な事に、観れなかった。
ドジです、マジで、ドジです。上映時間を間違えて、終わってた。
結局観たのは、「俺たちに明日はない」だった。
アメリカ版鼠小僧・次郎吉だね。

猿と猿回し……人間は、このどちらかのように思えた。
そして鼠小僧もボニー&クライドも猿で、世間が猿回しのように思える。僕もまた
猿でありたい・・・と。


慰めを求めているのか、拒むのか・・・
今の俺……ただ、無茶苦茶に、既定観念をぶち壊したい
ああ、いっそのこと……!
それができたら、苦労はしない。

 
   て 果 が こ   と あ い た 僕     一 あ 
   し た   の   い な え く に     体 ま 
   ま し   僕   う た  `な は     何 り 
   う て   自   の が 決 い ・     を に 
   の  `  身   で 嫌 し  °・     や 疲 
   で 本    `  は い て   こ     れ れ 
   す 当   こ   な に  `  れ     ! す 
    °に   れ   い な 僕   以     と ぎ 
     自   以   の る を   上      `た 
     分   上   で の 見    `    お こ 
     で   に   す で て   僕     っ の 
     あ   さ    °は     を     し 僕 
     る   ら     ・     あ     ゃ に 
     の   け     ・     な     る   
     か   出     ・     た     の   
      `  す           に     で   
     疑   自           見     す   
     っ   分           せ     か   
                           !   

                                         
 哀 僕           あ   あ   い や だ     肉 人 
 し は   行 こ     な   な   い は と     体 間 
 く  `  動 と     た   た   と り し     が は 
 も 何   ・ ば     は   は   思  `た     成  `
 あ も   ・ ・     こ   こ   え 階 ら     長 一 
 り 言   ・ ・     れ   れ   る 段  `    し つ 
  `え   ・ ・     以   以   の を 僕      `一 
 嬉 な   何 何     上   上   で 一 の     心 つ 
 し い   の を      `   `  す 段 あ     も 年 
 く  `  証 伝     僕   僕   が 々 な     成 を 
 も 何   し え     に   に    °々 た     長 取 
 あ も   に る     何   何     上 に     し り 
 る で   な と     を   を     が 対     て  `
 の き   る 言     し   言     る す     い そ 
 で な   と う     ろ   え     よ る     く し 
 す い   言 の      `   `    う 想     も て 
  °自   う で     と   と     で い     の そ 
   分   の す     言   言     あ と     な の 
   が   で か     う   う     っ て     の 年 
       す ?     の   の     て       で 齢 
       か       で   で     も       し と 
       ?       す   す             ょ 共 
               か   か             う に 
               ?   ?              °  
                                     

小説家を志す、一人の若者。短編小説を書き上げて、意気揚揚としている。
大切な原稿を失い取り乱す彼の元に、若い女が原稿を届けてくれた。
女は小説を誉め称え、感激していると言う。若者は、嬉しさのあまり、その
女と語リ合う。そしてその女との結婚までを夢想してしまう。

意気盛んに仲間と語っている折り、知己の喫茶店のマスターが訪れ
“実は、狂人女だ”と、事情を話す。

若者は愕然とし、独り……
永島慎二作 漫画「初夏と汗」の要約