「証明して!」
「はああァ? し、証明ったって…どうすりゃ、いいんだよ」
びっくりもんだ。何を言い出すかと思ったら、“証明”と、くるんだもんな。
数学じゃあるまいし、どうするんだよ。

「何でもいいから、ひとつ約束して。何かをやめる、とか、逆にはじめるとか。
とに角、あたしのために、何かして!」
もう、真顔なんだよ。目ん玉なんかさ、ギラギラって感じなんだよ。すこし俺、
ヒビっちゃった。で、つい「う、うん」って、答えちゃって。
そうは言ったもののよお、何をはじめりゃいいのか。
止めるったってえ、あいつらみたいにタバコはやってねえし、…
「勉強でもいいよ」なんて、とんでもねえよ!
いまさら勉強したって、しょうがないジャンか。高校でたら、即就職だかんナ。

ああ、もう!
なんか、ねえのかよお。簡単にはじめられて、kazukoに、アピールできることわあ。

人間の感情を証明するなんて、そもそもできるわけねえじゃねえか!
でも、なんかやんないと、kazuko、やらしてくんないしなあ。
まっ、いろいろ考えてさあ、いろいろと、よ。
で、さ。グッドアイデアが浮かんだねえ。俺って、頭いいジャン!

秋によお、校内マラソン大会てのがあるわけよ。今まではかったるいから
無視してたんだけど、これが最後でもあるしさ、出てやろうと思うわけよ。
んでもって、ぶっちぎりの優勝うう! テープの先にさ、kazukoが待ってるって、わけよ。

実はね、夕んべ、夢見たの。これは、神のお告げだね、きっと。
夕陽を背にしながらね、カッコ良く走る俺が居るわけ。もう沿道の連中なんかさ、大興奮なわけよ。
「金メダル!」なんて、掛け声があっちこっちから飛んでくるの。軽く手えなんか振っちゃってさ、俺。

んでもって、こぶしを何度も突き上げながら、テープを切るのよ。
それで、お定まりのタオルよ。kazukoの持つタオルに、のはずがよ、masamiでやんの。
あの巨乳にさ、顔なんか埋めちゃってえ。気持ちいいぃぃぃ!
でよ、kazukoにそのことを言ったのよ。
「お前に、優勝の賞状をプレゼントするぜ!」って。
そしたらkazukoの奴、大笑いしやがって。
「ムリ無理! 最後まで走れるかどうか、分かったもんじゃないわ。
優勝なんて、とってもムリよ」
「なんだよ、それわ。ひとがやる気出してんのによお」
「ごめんごめん、めんごお! いいわ、完走したら、認めてあげる。
ビリッけつでもいいから、最後まで走って。
但し、歩いたらだめよ。あたしも出るから、一緒に走ろう?」

そこまで言われちゃ、もうやるっきゃねえよ。
なあに、たかだか5kmぐらいだ。なんてこと、ないわさ。
と言いつつも、ぜんぜん運動してねえんだよな。
で、夜に走ることにしたわけよ。
俺んから大体3kmぐらいなわけよ、kazukoん家わ。
そんでもって、なんかさあ、kazukoが家の前でまっててさ、
俺が到着すると、chu! なんて、いいジャンか! 
いい、いい、これ、ぜってえ、いいって!

「これ、kazukoに預けとくわ。ズルしたくならないようにさ」
カッコつけて、車のキーを渡しちまったぜ
「フーン、本気なんだあ。でもお、いつまで続くかな?」
鼻に小じわなんか寄せやがってえ。俺、マジだかんナ!

バテバテだあ!
きっついぜえ、マジで。
あいつら、陸上部の連中、こんなこと毎日つづけてんだよなあ。
すっげえわ、マジで。

いゃあ、良かったよ。kazukoに、
「お前ん家までまいばん走るぞ」なんて、言わなくて。
三日坊主じゃないが、一週間で、グロッキーだ。

「感心、感心! あたしも、付き合おうかなあ」
帰りぎわ、とんでもないことを、kazukoの奴、言い出した。
知ってたんだよ、俺がまいばんkazukoん家まで走ってたの。
霊感が、ひょっとしてある?
俺の呼ぶ声が聞こえたんだって。
そう言えば、最初の夜、声には出さなかったけど、“kazuko、来たぞ!”って。

結局、kazukoも走ることになった。
まっ、それはそれで嬉しいんだけどよ。
kazukoの奴、
「ねえ、夜走るのはやめようよ。
父さんがさあ、うるさいんだよね」って、言い出して、
結局ひる中は暑いから、早朝になっちまった。
六時、六時だぜ。やってられないぜ、まったくう。
おかげで、昼寝なんかしてるよお。
あっ、言ってなかったっけえ。夏休みに入ったんだよ。
分かってるよ、分かってるう。
夏休みに、ビシッときめるつもりだったけど、伸ばすよ。
校内マラソンって、約束が出来ちまったんだから、仕方ないジャン!

しっかしさあ、九月なんて、まだ暑いぜえ。
下旬だからって、センセーさまは言うけどよお。
暑いぜ、マジで。毎年、二三人ぶっ倒れるって話ジャン? 
保健室に担ぎ込まれるって。それって、ヤバクない? 
PTAで、問題にしてくんないのお?
ホントかどうか知んないけど、
“伝統行事だ!”って、おっさんが一喝したって話があるんだけど。
マジィ?!
ああっあ、今日は走りたくねえよナア。
この暑いのに、ふた親ともご苦労なこった。
もっともそのおかげで、飯が食えるんだけどね。

ところが、ところが、だ! あしたの朝は、俺ッチが用意しなきゃあならないとわ。
妹のmoekoを当てにしてたら、
「残念でしたあ、yukariの家にお泊りに出かけま〜す!」って、
夕んべ出かけちまいやがった。
自慢じゃないが、俺は料理なんかしたことがないんだよ。
学校のだって、だかんだって理由つけて逃げてんだ。

仕方ない、コンビニで買うかあ。帰りに、ちょっと寄り道しょうか。
なんて、ステキな日なんでしょう。
「神さまあ、ありがとう!」
kazukoがさあ、朝ごはん作ってくれるってえ。
目玉焼きぐらいだよ、って言うけどよお。
何でもいいってえ、何でもぉ。腹がふくれれば、さあ。
なんてのかなあ・・ビミョーに違うんだょな。
どこが・・って、うまく言えないんだけど、違うんだなぁ。
はっきし言って、お袋の目玉焼きの方が、数倍美味い。
ひと味、なんかを付け加えてるんだろうなぁ。

ああ、目が潤んできたぞ。ヤバイ! って。

「大丈夫、大丈夫だって! 十分に、美味いんだから。
お袋のは、味がさ、濃いぃんだよ。
な、kazukoのは、あっさり系なんだ。でも、マジでうまいって」
もう、なだめるのに苦労したよ。

料理歴二十数年のお袋に、叶うわけないジャンよ。
なに、対抗意識持ってんだよ。そんなことに、女ってのはこだわるのかねえ。
飯を食い終わってから、後片付けをしたんだけど。
よく新婚家庭でさあ、旦那が手伝ったりなんかしてるジャン。
だっせぇ!って思ってたけど、俺もそれをしてんのよ。
なんかさあ、楽しいんだな。
kazukoのとなりに立ってさ、kazukoが洗い終わった食器を、
俺がかごの中へ並べるのよ。うれしいんだよな。変な感じ、実際。
「臭〜い! シャワー、浴びてよお!」
突然、kazukoが言い出すんだよ。
びっくりだよ。汗をびっしょりかいてるから、汗臭いことは分かるけど。
そんな大声で言わなくなったって、いいジャンかあ。

風呂場から出たら、ちょっと変な雰囲気が漂ってた。
俺もさ、正直のところ、急いで出わしたんだけど。
ぬる目のシャワーを浴びてる内にナ、この家にふたりっきりだって、気付いたわけよ。
俺が気付いたってことはだよ、トーゼンにkazukoだって気付いてるわ。

俺としてはナ、黙って帰られちゃ困るわけ。
せっかくのチャンスでもあるわけだし、と言って焦って失敗するのもイヤなわけだし。

どっちにしても、平静を装いながら、風呂場を出たわけなんよ。
で、次のことばがむずかしい。

「kazukoォ? シャワー、浴びてっかあ?」
俺的には、“浴びていくか?”なんだけど、どうもなあ、
“浴びてっかあ?”って、言っちゃったみたい。

ちょっと間があってから、
「うん、入ってく。汗臭いの、嫌だもんネ。
お母さんのバスタオル、貸してねえ」。kazukoの明るい声が返ってきた。

正直のところ、ビビったあ。
すぐ返事が返って来ないもんだからさ、あちゃあ、失敗したあ…ってね。
でもさあ、なんで母親のバスタオルなんだあ? 
そんなこと、いちいち断らなくても、俺のは貸さないよ。
女どものタオルにするに決まってる。

あとでさ、妹に聞いたんだよ。
「yukariんとこで風呂に入ったとき、誰のタオルを借りた?」
そしたら、
「そんなのyukariのに決まってるよ。なんで、そんなこと聞くの? 
なんかエッチなこと、考えてない?」って、言われちゃった。
俺の考え過ぎかあ?
ここで問題!
kazukoのシャツは、汗でびっしょりです。さあ、どうしたでしょうか?

@俺のを貸した
A妹のを貸した
Bそのままバスタオル姿

さあ、さあ、さあ、さあ! どうだあ!
えっ?! 分かっちゃったあ? 俺の気張り方でえ?
そうなんだよなあ、俺のを借りてくれたんだよなあ……
もっとも、俺のシャツを脱衣かごに入れておいたからなんだけどお。

「おおきい、大っきいぃっ!」って、大はしゃぎよ、もう。
そりゃそうだ。3Lサイズだもんナ。
俺にしても、“でけぇ!”って思いつつ、着てるんだ。
とに角さ、シャツ一枚で十分って感じ。
お尻どころか、ひざ上10cmぐらいのところまであるもん。
もちろん、ハーフパンツも貸してるぜ。

それから、お決まりの、アルバム観賞よ。
1ページ目は、ほらっ、良くあるジャン。
赤ん坊を仰向けにした写真、それよ。
それも、デーン! とでかい奴でさ。 
一枚だけ、貼ってあるのよ。おちんちん、丸出しで。

kazukoの奴、わざわざ指で押さえて大笑いしやがる。
「か、わ、いいぃぃ!」
俺の肩をバンバン叩きやがって、痛いのなんの。

「やめろよ!」
手で振り払ったら、…振り払ったら、…kazukoの体が、クルリと俺の正面に来ちまって。
フローリングの床だから、滑っちまって。

「ご、ごめん。調子に乗りすぎたね…」
うつむき加減に、kazukoが、謝った。
「い、いや。俺こそ、力を入れすぎた…」

気がついたら、kazukoのひざが、俺のひざに当たってて。
そんでもって、俺の手がkazukoの腕に当たってて。
心臓がバクバクして、頭がカーッと熱くなって、
「kazuko−!」って叫んで、そんでもって、kazukoを押し倒してて。

もう何が何だか、わかんねえの。
kazukoが抵抗していたのかどうか、それすらわかんねえの。
kazukoの口をいじゃってて。
あんなもん、キスじゃねぇよ。ぶっつけてただけだもん。
悪いことしたよ、kazukoには。
ファーストキスがあれじゃ、ロマンチックのかけらもねえ。

我にかえった、って言ったら変だけど、
カーッとなってた頭が落ち着いたのは、kazukoの胸を触った時だったような…。
ペコン! って、感じ。
シュークリームにかぶりついた時、上の方って中身がないジャンかさ。
あれっ? って、感じするだろう。あんな感じ、だ。

な〜んかさあ、裏切られたような気がしてよお。
小っちゃいなら小っちゃいでいいんだけどさ。

桜の季節を迎えたんだけどさ、俺、なにやってんだろうなあ。
結局どこにも就職できずに……。
車の購入資金稼ぐのにやった、ガソリンスタンドのバイトをまた始めた。
とりあえず半年間の契約なんだけど、一年に伸びちゃうかも。
店長は、それでもいいゾ、って言ってくれてるから。

親はキチンと就職しろってうるさいけど、
学校の紹介してくれた車の部品工場じゃあ、なあ…。
寮に入ることになるしなあ。
就職体験させてもらったけど、キツイよ。
ベルトコンベアで流れてくる部品に、ネジやらボルトやらを時間内にはめ込んでいくんだぜ。
自信ねえよ、俺。それに、立ちっぱなしだし。

えっ? kazukoのことお?
kazukoはよお、大学に行ってるよ。nagoyaのね。
俺なんかとは、住む世界が違うんだなあ。
ちょっと考えりゃ分かる、ことなのにさ。
俺みたいな頭の悪い奴では、kazukoにはふさわしくないよ。
それくらい、俺だって分かるさ。

kazukoとはさ、結局、キスだけで終わっちゃったあ。
いやあの後もさ、何度かチャンスらしきことはあったんだけど、
なんでか知らないけど、しぼむんだよ。

この話をさ、車を売ってくれたおじさんにしたんだけどさ、笑われた。
「いいんだよ、それで。そういうことも、ままあるってことさ」って。
それから、意外なことを教えてもらった。
俺の親父に、女のことで相談したことがあるんだって。
やっぱ、父親には話しにくいよな。

で、親父に同じことを言われたって。
「迷える仔羊、stray sheep。悩める青年、rolling age、だよ」
分かったような、分かんねえような。
いろんな経験をして、それからゆっくり大人になれ、ってさ。