三行詩 


 西の空を風が流れ 雲のない空に 大きな雲をえがく

東の空を風が流れ 雲のない空に 真っ赤な朝日をえがく

太陽の光が湖に凍てつき 水面を走る白鳥――朝の儀式

                          = 朝の儀式 =  




 

















       

シャンソンの流れる マロニエの並木道に 春の訪れ

コーヒーの香が漂う 時代遅れのカフェに 浪漫の花

恋人たちは今 エッフェル塔の陰で 凍てついた太陽を見る

                          = 春の訪れ =

    水たまりの中の青空が凍るのは 地上のすべてが光を失うとき

あたらしい世界の生誕の日 ピサの斜塔は崩れ去る ―― 落日

その朝ナイルの川に水が溢れ 砂漠の地に花が競い咲くことだろう

                              = 愛・起こり = 
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白いタバコの煙が 朝の光に溶けこんで 枯れていたのは窓辺のリラ

犬の遠吠えの哀しい色に 太陽の目覚めがはじまる

その夕べには 窓辺のリラも 実をつけるだろう

                              = 朝の光と月 =       吹きすさぶアルプスの峰に 二つの黒いしみ 雪上に点点と

朝に輝く雲海の光は アルピニストの背に 強い光を落とす

天に突き上げられた二本の旗 その日太陽は三つとなった

                      = 朝・三つの太陽 =      あふれる愛がとめどもなく ほほを濡らす その夜明け

    海と朝日が溶けあって ふたつのこころをあわせ

                     いま 昇天していく

                        = 昇天 =
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   紫色に彩られ タバコの煙りは 薔薇に座吸われる

   冷たい影を落としていた月は 今 かげりました

その朝には 枯れたバラが そこには 在ることでしょう

                          = 薔 薇 =          銀の皿を並べたこの川に ちぎり捨てられた レモンの皮

      岸辺にたどりつくさお舟の 人影の背に 春が宿った

その朝には 銀の皿を並べたこの川に すでにレモンの皮はないのです

                                 = 銀の皿 =
              時の流れは今 川となりました

 銀の皿は流れるのです そのうえに空を乗せたまま

その夜空は消えました その朝には太陽が消えました

                  = 朝・太陽が消えた =
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 ジュリエット 君の名はじゅりえっと ロミオはどこだ ろみおはここにいる

    中性と現代 ビッグバンが起こった 月が光る そして弾けた

      光と闇 堕天使ルシフェル ぼくは今も ここにいる

                                  = 愛・昇華 =      風に散り舞う新聞紙に 凍れた太陽光線が届く

靴底の破れから指が出て ようやくこの世に笑いが生まれた

その夜 白い舗道で 年老いたピエロは泣いていた

                            = 愛・復活 =              花ひらく幻の都 その影を ふるえる水面に映す

  ギターの爪弾きとゴンドラの哀しい叫び声は 水面を刺す

落日がガナル=グランデに煌々と映え そしていよいよ落日!

                              = 落 日 =
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 流れるシャンソンのメロディーは 浮かれた風をグラン=プールへ連れてきた

     胸を病む画家たちのあいだを 浮かれた風が囃し立てた

   セーヌの川に置き忘れられた郷愁さえ 風は吹き飛ばしていた

                                     = 風・郷愁 =      エッフェル塔の下のため息を 気まぐれな風はパリの街へと運んだ

  コートの衿を立てて急ぎ歩く旅人を 冷たい風は囃し立てた

       今 風は眠っている 朝 風はまた吹くだろう

                              = 風・旅人 =      水たまりの中で冷たい風に吹かれ 小さくなっているのは 青空

  楡の木に泊まっている小鳥は その夜 美しい声でさえずる

朝には は冷たく乾いた風と共に 黒いカラスが鳴くことでしょう
 
                               = person =