(百九十二)

「頼まれてくれ、五平。佐伯正三という男に連絡をとってくれ。小夜子にあわせる」
 腹の底からしぼりだすような、重い声だった。沈痛な面持ちの武蔵から、思いもかけぬことばがでた。
「社、社長。どういうことです、そりゃ」
 ひっくり返った声で、五平が言う。伏せられた武蔵の目を追いかけてのぞき込んだ。
「いいんだ、いいんだ。いまのままじゃ埒があかんのだ。小夜子の中から、消さなきゃならん。小夜子の時間は、まだ止まっているみたいだ。普段の生活ぶりから、もうふっ切れていると思っていたが、まだこね切れていないみたいだ」
 キッと、五平の目を見すえる武蔵。腹をくくったときの武蔵の射るような目が、五平にそそがれた。こうなると、なにを言っても武蔵の意思はかわらない。己に不利な状況に追いこまれようとも、変えはしない。
「そうですか。まだたち切れていないんですか。いや、おそらくは腹は決まっていますな。ただそれを認めたくないんでしょう。おたがいに上京してから、一度もあっていないんだから」
「そうか? そう思うか、五平も。俺もな、いい頃あいだと思っていたんだ。でな、茂平さんにご挨拶に行く、と伝えたよ。そうしたら、怒ることおこること。はじめてだ、あんなけんまくは」
 がっくりと肩を落として、ソファにへたりこんだ。

「社長! いや、タケさん。いまは、おとこ武蔵に話しましょう。女にふられた経験のないタケさんだ。そりゃびっくりしたでしょう。あの小夜子さんにしても、あまり挫折感といったものは味わったことがないでしょうな。劣等感といったものは味わっているかもしれませんがね。なにせ貧乏だ。貧乏、これはいけませんや。人間をね、萎縮させちまう。自分を過小評価してしまう。で、そこからが問題なんです。なにくそ! とはい上がるか、そのまま沈んでいくか。これが問題だ。人間の質みたいなものです、こいつは変えられない。
 運命と言いかえても良いかもしれませんな。しかし面白いもので、外からの風みたいなもので、かわることもあるんですよ。男女のからみやら、兄弟姉妹の情といったもので。まったくの他人からの風もあります。尊敬する人物とか、死線をともにした仲間とか。
 タケさん、あたしも変わりました。タケさんのおかげで、他人さまを信じられるようになりました。感謝してます、ほんとに。ま、女衒をなりわいにしていたあたしです。ろくな者じゃなかった。ひかげの道を一生歩くことになってたんです。それが、タケさんのおかげで、お天道さまの下を歩けるんです。感謝してます。いやいや、本当の話です。

 小夜子さんは、アナスターシアとか言うモデルでしょうな。それまで無理をしていたと思いますよ。砂上の楼閣でしたでしょう。いつくずれるとも分からぬ、ですな。必死の演技でしたでしょう。それを、アナスターシアというモデルによって、演技ではなくなった。いや演技をする必要がなくなった。これは大きい。よろいを身にまとう必要がなくなったんですから。
 ところが、突然の死だ。ふわふわの状態に逆もどりだ。大きな船から大海原に落ちたもどうぜんだ。飛行機からジャングルの中に落ちたもどうぜんです。全身から針を出している、やまあらしですよ。そんなおりに、白馬の騎士だ。御手洗武蔵という、ね。ところが、いままで邪険にしてきている。ほいほい貢いでくれる男ぐらいにしか考えていなかった」

 五平の長口舌のあいだ、聞いているのかいないのかわからぬふうの武蔵。激しい嵐の海にこぎ出そうとしている、そんな思いになっていた。
いいのか、武蔵。小夜子をとられるかもしれないんだぞ。初恋の男だぞ、あのおとこは。
あの男と結ばれるために田舎をすてた女だぞ、気性の激しさは並じゃない。いちずな女なんだ、こうと決めたら突きすすむ女だぞ。戻ってくるとは限らんぞ。良いのか、武蔵=Bそんな逡巡の思いもある。

「大丈夫! タケさん、大丈夫ですって。タケさんには、肉体の繋がりがある。こいつは強い。それに、十分にぜいたくな生活をさせている。どんなにこころがうごいても、いまの生活を捨てるなんてできませんて」
 確信はなかった。武蔵に大丈夫だと告げるごとに、不安が押しよせる。とにかく今までに出逢ったどんな女ともちがうのだ。ただ単に気がつよい女にはみえない。やせ我慢などまるでしない。己のこころには素直にしたがっている。わがままな性分、そのとおりだ。我がつよい、それもある。しかしそれだけではない、小夜子という女を解くには、なにかが足りていない。人がひとを語る――神でもない五平にできるわけがない。それでも武蔵には、太鼓判を押した。
 五平に肩をたたかれて、「よし! 男がいちど決めたことだ、会わせてやろう。調べてくれ、五平」と、語気強く告げた。

(百九十三)

「小夜子。佐伯正三に会わせてやる。いや、会ってこい。会って自分の気持ちをたしかめろ」。驚きの色を隠せない小夜子に、ふだん以上に饒舌になった武蔵だ。
「こつちに出てきてから、二年、か? いちども会っていないだろう。男はいくさ場に出ると変わるものだ。小夜子がみた正三という男は、もういない。官吏さまだ。民をみちびいてやるのだ、そんな変な気概を持ったはずだ。いや、植え付けられたはずだ……」
 武蔵のすがたが、大きくおおきくふくらんでいく。そしてすこしずつ色がきえて、最後にはまるで色がなく、いや見えなくなってしまった。そこに、小夜子の前にいるのかすらわからない。ただ声だけが、大きな天にも届くかとばかりに伸びた樹木の先からきこえてくる。はっきりと聞こえてくる。しかしその意味が理解できない。武蔵の声が、音になってしまっている。
いや、いや!=B武蔵のすがたがきえ、音だけがきこえる――それがいやなのか、それとも、正三に会うことがいやなのか。きのうまでは、いや武蔵が帰宅するまでは、なんとしても会わねばと考えていたはずなのに、「会ってこい」という武蔵のことばが耳に入ったとたんに、全身に冷水をかけられたように感じられた。
「いまさら会う必要もないわ」。声にならない、ひりついたのどがことばを通らせない。

 それからわずか三日の後、正三と相対することになった。武蔵のおぜん立てで正三との再会をはたすべく、ハイヤーに乗り込んだ。ぜいを極めた最新モードに身をつつみ、戦場におもむく武将となった。
 突きぬけるほどに晴れわたった朝、約束の時間ぴったりにホテルに到着した。運転手によって開けられたドアから降りる小夜子、凛としてご令嬢然とした風情をかもしだしていた。うやうやしくドアマンがお辞儀をする。重々しいドアが開けられて、ベルボーイが入り口で待っている。
「ごきげんよう」。アナスターシアと共とも入ったホテル、思わず目頭が熱くなってくる。知ってか知らずか、武蔵がセッティングしてくれたホテルだ。ホテル内のレストランを、予約してくれている。

 昨夜のことだ。屈託なくわらう武蔵に、小夜子は頬をふくらませる。
「御手洗小夜子だ、と言えばいい。ロビーに、佐伯正三が待っているはずだ。すこし話をして、それから食事しろ。窓ぎわの席を用意させておく。ゆっくりと話をしていこい」
「ホテルだなんて、なにを考えているの」
「食事のためさ。いつものステーキの店はだめだ。あそこは、俺と小夜子のためだけの店だからな」
 そしていま対峙するふたり、やっとの再会だ。やくそくの接吻から、はや三年ほどが経っている。喜びにうちふるえる正三に対し、小夜子の高ぶりは、意外なほどにおだやかなものだった。

「本当に申し訳ありませんでした。すぐにも連絡をとりたかったのですが、連絡さきが不明で。あとから分かったのですが、手紙をかくされてしまっていまして。それに入省と同時に特別班に配属されまして。その部署というのが極秘事項を取り扱う部署で、外部との接触をいっさい禁じられまして。小夜子さんに連絡をとる術もなく、悶々とした日々をおくっていました。小夜子さん、ああ小夜子さん、どんなにお会いしたかったことか。でも小夜子さんがお元気そうでなによりです」
 「て、て、て、」と連綿と言いわけを並べたあとに、取ってつけたように再会のあいさつを言う正三だった。冷ややかな表情をうかべて聞きいる小夜子を見るにつけ、口数のすくなかった正三が饒舌となっていく。

「きょうの小夜子さんは、一段とおきれいですね。ベルボーイに案内されてこられたおりは、別人かと思いました。新進の女優さんかと、みまごうばかりでしたよ。アナスターシアは気の毒でした。まさか自殺とは、思いもかけぬことで。いかほどの衝撃だったことか、推察するにあまりあります。でもお元気そうでなによりです。
 その洋服は、最新モードですね。やはり、ディオールのオートクチュールですか? たしか、Hラインと思いますが。小夜子さんならではのチョイスだ。おにあいです、本当に」
 知りうるかぎりのファッション用語をならべたてる正三、源之助に聞かされていた小夜子とは、まるでちがう小夜子に動揺をかくせないでいた。そして正三が思いえがいた小夜子ではなかった。

変わってしまった。この女性は、小夜子さんじゃない
 正三の知る――思いえがいて小夜子ならば、正三の話にキラキラと目を輝かせて、「うんうん」と大きくうなずくはずだ。「特別班だなんて、やっぱり正三さんはすばらしい」と、褒めことばを返してくれるはずだ。そしてそして、「お父さまの反対を押し切ってまでわたしのことを」と、感激のなみだを流す、そうであるはず、あったはずだった。すくなくともついさっきまでは、そう考えていた、思えていた正三だった。

(百九十四)

 じっと黙したまま、正三のことばを聞きつづけた小夜子。蝶ネクタイ姿の正三をまのあたりにして、二年という歳月がみじかいものではないことを知らされた。口べたで、おのれの思うところの半分、いや十分の一も語れなかったはずの正三であり、ときとして口ごもってしまい、うつむいてしまう正三だった。しかしそれでも、意図することは伝わってきた。
違う、ちがう。この男性は、正三さんじゃない!

 いまそれぞれに、たがいの知る相手ではないと感じた。小夜子、正三ともに、たがいが思うふたりとはまったく異質なふたりになったと気づいた。
「すてきな殿方だこと、ほれぼれしてしまうわ」
「ご令嬢もうつくしいわ、うっとりしそうよ」
「ほんとにお似合いのおふたりだこと」
「ほんとに。美男美女とは、このおふたりのことね」
 そこかしこからもれる、ため息と賛辞。ふたりの耳にもとどいている。しかしもう吹き抜けのエントランスを、ただ漂うだけのものだった。ふたりの耳に留まることなく、とおりすぎていく。

「なんだか、あたくしの知っている正三さんじゃないみたい。あたくしの知っている正三さんは、そんなに弁舌がたつお方ではありませんでしたわ。お変わりになったのね」
 小夜子の射るような視線が、正三にはきつい。以前にもまして鋭さを帯びている。
「そうですの。あたくしとの約束など、まるで。以前の正三さんなら、どんなことをしてでも探し出してくださいましたわ。ええ、ええ。殿方はお仕事だいいちですものね。あたくしがどれほどこころぼそい思いをしたかなどは、露ほどにもお考えくださらなかったのよね」
 田舎での小夜子も、きわだって美しいと感じた正三だ。しかしいま、眼前にいる小夜子からは、神々しささえ感じている。みたらいとか言う男にみがかれての、小夜子さんなんですね≠ニ、猛烈な嫉妬心にかられた。
「そ、それは……。日本国のみらいをも左右しかねない、だいじな機密事項でして。外部との連絡はいっさい認められず、身内以外との接触は、厳につつむようにと禁じられました。それに接触といいましても、月にいちどの手紙がゆるされるていどでして。しかも上司の検閲をうけるといったぐあいです。外出などいちどたりともゆるされません」

 正三が携わった国家プロジェクトの重大性、機密性、そのことが伝わらぬもどかしさを感じつつも、まだいまなら正三の思いは伝わるだろうと考えた。正三のおかれた立場をわかってくれるだろうと思った。
「機密事項なのでお話しすることはできないのですが、座敷牢に閉じ込められていたと思っていただけませんか。幾人の総勢だったのか、全体像すら教えてもらえないのです。ぼくの場合は五人が班として振り分けられまして、さらにはその班長に任じられたのです。そのぼくが禁を破るわけにはいかんのです。ご理解ください」

(百九十五)

「そうですの、あたくしは身内ではありませんのね。たしかに、はっきりと将来のお約束をしたわけではありませんものね。あたくしは、そんなものでしたのね。あたくしの思いちがいでしたの、やはり」
 二の矢がきた。正三が必死のいいわけをする。
「えっ?! そ、それは……。いえいえ、ぼくとしましても。役所というのは文書によってうごくものでして。その、実体のない情のようなものでは、だめなのです。なにごとも前例によって事がすすみます。上にお伺いをたてて、その許可なり了解がないものはだめなのです。がんじがらめの状態なのです。
 どうぞ、ぼくの立場をおわかりください。ぼくのこころのなかでは、小夜子さんは身内です。生涯の伴侶とおもっておりました。しかし、法律上では他人なのです。戸籍に載っていないことには、身内としてみとめてもらえないのです。ぼくとしましても、どれほどに連絡をとりたかったことか。しかし許されない行為なのですよ。ぼくの苦衷も、どうぞお察しください」

 ハンカチで額の汗をぬぐいながらの、正三の精いっぱいの弁解だった。しかし小夜子の耳にはまるではいっていない。許しを請う正三のさまを、ただただ見ていた。
「やっぱりあの女性との情交で、大人になられたのね」
 とつぜんの、まるで予期せぬ小夜子の問いかけに、唖然とする正三だ。
な、なんだ? どういうことだ? 小夜子さん、あなたは知っているのですか、あの芸者のことを。ま、まさか、叔父さんが
 正三のあわてふためく様を見た小夜子に、怒りの思いこみあげてきた。
やっぱりなのね。タケゾーの見立てがあたったのね。商売女との情交だろうというタケゾーのことば、ほんとうなのね
 おのれの操を与えてしまった――否。小夜子のなかでは、うばわれてしまった――小夜子の、先制攻撃だ。小夜子の意思を無視した武蔵の蛮行だと、おのれに言い聞かせている小夜子だ。抵抗をしなかったのは、万端やむなきことゆえとする小夜子だ。そんな思惑についぞ気づかぬ正三、しどろもどろの返事となってしまった。

「そのことについてはですね。叔父がどのようにいったか、ぼくにはわかりませんが。たぶんに誤解があると思います。決して愛情云々ではなく、そのなんと言いますか、流れと言いますか……そう、そうなのです。場のいきおいに飲まれて、つい深酒をしてしまいまして。不覚にもめいてい状態におちいっていたのです。
 で、皆がなにをしているのかわからぬ状態になりまして。おのおのがそれぞれの芸者と、その、別室にうつっていったのか。ぼくにしても、どのようにして部屋をかえていたのか、まるで判然としないのです翌朝に目覚めたおりに、となりにその芸者がいたときには、もう飛び上がらんばかりに驚きまして。
 ですから、その、ですから行為そのものをしたのかどうかすら、判然としないのです。はい、服はぬいでおりました。芸者が言うにはぼくが脱いだと言うのですが。キチンとえもん掛けに背広なんかが掛かっているところをみましても、自分で脱いだとは思えんのです。たしかに、裸で寝ておりました。芸者を抱いてはおりました。しかし、しかしです。ぼくはめいてい状態で、なにも覚えていないのです。おのれの正気はまるでなかったのです」

(百九十六)

 目を伏せて、テーブルの一点をみつめてはなす正三に、小夜子から三の矢が射られた。
「男らしくありませんことよ!」
「違います、ちがいます。ほんとうに正気ではなかったのです。ですから、ですから……、けっして小夜子さんを裏ぎってはいません」
 正三の必死のさけび、それは小夜子の許しを請うというよりは、おのれに対する言いわけだ。ぼくは悪くない、酩酊状態のぼくになにができるというのか。芸者と情交をかわしたかどうかすら、怪しいものだ。いや仮にだ、仮にそうだとしても。かたわらにあった物体を抱いてねたというにすぎない
 執拗に否定する正三だが、じつのところ、すこしずつ記憶が蘇ってきている。あれこれと世話をする芸者に対して、不遜な態度をとりつづけたことを思いだしている。

 連れのふたり人を残して、芸者にうながされるままに席をたった。
「さーさ、行きましょうね。ご不浄ですよ、がまんしてくださいよ。漏らしちゃ、だめですよ」
「がんばれ、佐伯くん。未来の次官さま。撃沈されぬよう、しっかりとがんばれよ!」
「なにごとも、為せば成る! だ。佐伯正三くん、突撃だ!」
 ふたりからの檄が聞こえぬふうに、芸者に寄りかかって部屋をでた。トイレに行く気などまるでなかったが、芸者がくりかえすご不浄ということばに、身体が反応しはじめた。
 千鳥足であるく正三と肩に手をかけさせて支える芸者。襟元からただようほのかな香に、気持ちがゆったりとしてくる。毎日を緊張のなかに過ごした。激論が闘わされるなか、ひたすらその内容を書きとどめつづけた。その激論のなかに入れぬおのれが情けなかった。
正三に対して未来の次官さまと口々に言う者たちが、己の論を東陶とまくしたてるというのに、正三ただひとりが蚊帳のそとに置かれいる。
これでも班長といえるのか!=Bじくじたる思いが正三を責めたてる。
 
「仕方がないさ。佐伯くんは途中入省なんだから」
「次官さまというのは、大所高所から物ごとを判断するものさ」
「方向性を指しすめすものだ、次官さまは」
「こんな議論は、われわれに任せてくれ」
「佐伯くんは、最後の最後に、どん! と行くんだよ」
 結局のところ、最後まで議論の輪のなかに入ることのなかった正三だ。入るではなく、入れなかった。哀しいかな、彼らがなにを論じ合っているのかすら理解できない。理解できない専門用語がポンポンと飛び出して、議事録としてまとめようとする正三を悩ませつづけた。とりあえずカタカナで書きとめて、議論終了後に一語一句を確認しつつ漢字表記した。屈辱だった、しかし如何ともしがたい。苦渋の思いを飲みこんで、彼らからの教えを受けるだけだった。しかし事務次官に提出する報告書を作成したことで、正三が班長であるという面目は保てた。

「さあ、着きましたよ。佐伯次官さま、お手伝いしましょうか?」
 芸者の声が心地よく、正三の耳にとどく。
「うん、うん」と、うなづく正三。良きに計らえとばかりの、正三。殿さま気分の正三だ。はじめて味わう感覚だった。これが上長の頂上か? 支配欲を満足させる権力者といったものか? 叔父の源之助が口酸っぱくくり返す、次官になるということを感覚でとらえた正三だった。

(百九十七)

 しかし床が用意された部屋に入ったとたん、正三の意識が一変した。
「ぼ、ぼくは、小夜子さんひとすじ決めている」と、身体を固くした。
「ほらほら。なにごとも、お勉強ですよ。すべての殿方は、みなさんお勉強をされてから事にのぞむものですよ」
 芸者のことばに真実味を感じてしまった。
 小夜子との初接吻。いきなりとはいえ、体が硬直してしまった。あのおりのことが、小夜子と正三との主従を決定づけたんだと考えた。あきれる芸者をしり目に、正三が、脱いだ服をたたんでいく。
「早くいらっしゃいな」と急かす芸者に、「明日の出勤に着ていかなければならんから」と、言い張る正三だった。
「ふふふ、照れ屋さんなのね」。芸者の妖艶な声が、いま、はっきりと思いだされた。

 小夜子にきつくなじられる正三――逓信省に入省以来、源之助以外にはない。皆がみな、正三にかしずいている。批難する者はいない。詰問する者などひとりとしていない。一切の言いわけに耳をかさぬ小夜子に、はじめて怒りの表情を、正三が見せた。
 報告書の提出以来、官吏さまとしてたてられる日々を送る正三だった。同僚はもちろんのこと、直属の上司ですら敬語を使う。認可を求めて日参する企業の役職たちですら、最敬礼をせぬばかりの態度で接してくる。ときとして訪れる役員が、年端のいかぬ正三にたいして頭を下げに来る。他の部署への陳情のおりですら、わざわざ挨拶にくる。それが、正三の後ろ盾である源之助に向けられているものだとしても、悪い気はしない。
 その正三が、小夜子になじられている。しかも公衆の面前で、容赦なくなじられている。非が正三にあるとしても、すこしの弁解も聞かぬ小夜子にたいし、沸々と怒りがわいてきた。
そこまで言わなくてもいいじゃないか。しょせん、酒の上でのことじゃないか。ぼくにしても、筆おろしが芸者ごときあばずれだったことは、慙愧にたえないんだ。そんなぼくに、ここまで傷口に塩をすり込まなくても……。それよりもだ。小夜子さん、あなたはどうなんです! やはり叔父さんがいうとおり、御手洗とかいう男に、おとこに、もう抱かれているのではないですか! ぼくを責める前に、いやぼくだけを責めることはできないはずだ。世間では、女性は操を守るべきで、男は、おとこは……。お互いさまってことで、水に流してもいいじゃないか

 小夜子は正三の言いわけを聞き入れるわけにはいかない。もしいま聞き入れてしまえば、小夜子自身がくずれてしまう。武蔵をすでに受け入れている小夜子は、正三の不実をせめる以外にない。いま罵詈雑言を浴びせつづける小夜子は、正三のこころに消えることのない傷をのこすかも知れない。こんなイヤな女なの、あたしは……=Bそして小夜子もまた、傷ついていく。
 今日の小夜子との再会は、正三にとって、最悪のものだったかもしれない。人生に分岐点があるとすれば、いままさに、だ。金色夜叉物語りでは貫一がお宮を足げにするけれども、いま、正三が足げにされた。

(百九十八)

「小夜子ー、帰ったぞ! どうだった? 元気にしていたか、正三くんは。つもる話もあったろうが、故郷の話に花が咲いたか? 小夜子、小夜子ー、いないのかー」
 矢継ぎ早に声を上げるのは、小夜子の反応が気になっているからだ。早く小夜子に聞きたい気持ちとともに、先延ばしにしたいという気持ちもある。そんな相反する思いが錯綜するなか、大声を張り上げつづけた。

 大きな門灯が武蔵を出迎えた。そして玄関の灯りは、煌々と点いている。廊下もまた明るい。しかし居間に客間、そして台所の灯りは点いていない。そして奥からは、なんの返事もない。階段下から二階をのぞきこんでみるが、ぴっちりと襖が閉じられている。どかどかと大きな音を立てて、階段を上がった。その足音に小さなふくみ笑いが返ってくるのが常なのに、いまは声がない。

まさか……=B背筋を冷水がすべり落ちた気がした。
いや、そんなはずは……あるわけがない。小夜子は俺の女だ、俺のものだ。眠っているんだ。きっとそうだ、そうに決まっている
「小夜子、小夜子ちゃーん。どうしたのかな、疲れたのかなあ?」
 明るくやわらかく、そして甘ったるく呼びかけた。薄暗い部屋をのぞき見た。
となりの部屋か? 気分屋の小夜子のことだ、こんやは変えたか?
 寝室を変えたことなど一度とてない。まして、物置き同然にしている部屋だ。小夜子の買い求めたものが、所せましと並べられている。衣装箪笥に長持ち、そして衣桁が。
「かーくれんぼ、かくれんぼ。そら、見つけたぞ!」。いきおいよく襖を開けてみるが、かび臭い空気が流れ出てくるだけだ。「風をとおしていないのか」。武蔵の声だけが聞こえる。

正三がなんだ、官吏さまだと? そんなもん、そんなもん……
 吐き出してしまえばいいものを、どうしても声にすることができない。小夜子を大切にしてきたと、自負はある。しかしそれを小夜子がどう受け止めているのか、感謝の気持ちは多少はあるだろう。けれどもその思いを受け止めることのない小夜子だと、知る武蔵だ。
小夜子は、俺が女にしたんだ。どうだ、そんな女をお前は、お前は受けいれられるのか。どうだ、正三! 小夜子、お前は見かぎっていなかったのか? 小夜子、さよこ、サヨコ
 名前を口にするたびに、すこしずつ小夜子が見知らぬ女のように感じはじめた。違う、ちがうと否定してはみるのだが。
 がっくりと肩を落として居間にはいり、崩れるように本皮シートのイタリア製のソファに体を投げだした。会社用にと購入したのだが、その座り心地の良さに惚れこんで自宅にもと追加したものだ。
「痛いっ!」。とつぜんの嬌声に驚いたのは武蔵だ。だれも居ないと思い込んでいたこの家に、薄ぼんやりとしたこの部屋に、小夜子が居た。

(百九十九)

「どうしたんだ、灯りも点けずに。寝てたのか、このソファは良いだろう? このひじ掛けを枕にして眠ると、良く眠れるんだ。俺もよく眠るぞ。そうだろ? 小夜子にいつも起こされているよな」
 饒舌な武蔵にたいし、唇を真一文字に結んだままの小夜子が、一点を凝視して身動きひとつしない。灯りを点けると、出かけたままの洋装姿だ。帰宅時には着替えるのが常の、小夜子なのにだ。
「どうしたんだ? 正三くんには会えただろう? 喧嘩でもしたのか、それとも変わってしまった正三くんに、驚いたのか? まあ男というのは、三日会わないと変わるものだからな。まして、官吏さまとなると、いろいろあるだ」
「タケゾー! タケゾーのせいよ! タケゾーのせいで、わたしの人生は無茶苦茶よ。あの人は、正三さんじゃない! わたしの正三さんじゃない。別人よ、他人よ。タケゾーのせいよ、タケゾーの」
 激しく慟哭しながら、武蔵の胸をたたいた。弱々しいそれがそして声が、小夜子の衝撃の深さをあらわしている。
「タケゾーよ、タケゾーが悪いのよ。タケゾーのせいよ、全部」
 儀式のはずだった、単なる儀式の。いまさら正三と結ばれるなどとは考えていない小夜子だった。武蔵との幸せな人生を、贅沢三昧の生活を送るこれからを見せる。まさに正三への、不実な正三へのあてつけのはずだった。涙ながらに許しを請う、正三がいるはずだった。土下座をして小夜子の愛を求める、その正三でなければならなかった。そして、そして、学生服に身をつつんだ正三でなければならなかったのだ。

「小夜子さん、小夜子さん……」
 正三が取るべき行為すべてに小夜子の許しを得る、そんな正三を思いえがいていた。そんな正三に投げかけることば。そしてそんな正三にたいして、小夜子がとる行動――毎夜まいよ、思い浮かべたことだ。
「でもね、小夜子は、あなたのもとへは参れないのです。武蔵という伴侶と、世界を旅するの。アーシアとともに過ごすはずだった日々を、武蔵という伴侶とともにです」
 何度もなんども、伴侶ということばをつかう。正三がそのことばにたいして、歯ぎしりして後悔するであろうことを思いえがいたことばだ。
「正三さん。ありがとう、いままで。小夜子はあなたと出会えたことを、神さまに感謝したいと思います。正三さん。どうぞ、お国のために国民のために、しっかりとお仕事をしてくださいな」
 ひざまずいて許しを請う正三を見下ろす小夜子が、
 慈愛に満ちた笑みを浮かべて見下ろす小夜子が、。
「よろしいことよ、正三さん。あなたを許します」と、告げる。
 そんなおのれの姿を思い浮かべていた。しかしそれがうつつの世界ではなく、夢想の中だけと知らされた。

(二百)

 その怒りの矛先が、いま武蔵に向けられている。
「そうか、悪かった。俺がわるかったよ、小夜子。そうか、小夜子の夢をうばったのは俺だったのか。心配するな、な、小夜子」
 幼子を抱えこむように、あやすように、ゆっくりと武蔵が語りかける。
「どうだ、アメリカに行こうじゃないか。すぐにと言うわけにはいかんが、アナスターシアのお墓参りに行こう。それで、アナスターシアに報告しよう」
「ほんとに? ほんとに、連れて行ってくれる?」
 涙でくしゃのくしゃの顔を上げる小夜子。うんうんと頷く武蔵。ぼんやりとした月明かりの中、ゆっくりと武蔵の胸にしずむ小夜子だった。
 一時間ほど経ったろうか、小夜子がすやすやと軽い寝息をたてはじめた。そっと小夜子の体をはずし、ソファに横たえさせた。ひじ掛けに頭をのせて、満足げに微笑んでいる小夜子の寝顔をのぞきこんだ。
ふんぎりが付いたようだな。しかし、やっぱりショックだったか。正三を、おどおどしていた青年ではなく、いっぱしの男として認めたんだな。いや、それが許せないのか? 掌中にいたと思っていた男が、いつの間にか羽をつけて飛びまわっていたことが
 テーブルにジョニ黒を持ちだし、床にどっかりと腰をおろした。

 そして庭に目をやる。うっそうとした木々が邪魔をして空がない、そんな庭をつくった。
「旦那。この庭にこんなにたくさんの木は、ちょっと……」
 植木職人が異を唱えた。
「もうすこし減らしましょうや。これじゃあ、月明かりもなにも見えやせんぜ」
 しかし武蔵の気持ちはかたくなだった。生家の庭を再現したいという意固地な思いは変わらなかった。
「俺を捨てたことを後悔させてやる」
 その一念が、いまの武蔵をつくりあげている。しかしいま、その庭が一変した。一本だけ残した樹木の下には、色とりどりの花が植えられている。
「なに、この庭は。暗い、くらすぎる! こんなのいや!」
 小夜子のひと声に「分かった、分かった。一本だけは残してくれ」と、武蔵がおれた。

「今夜は小夜子の寝顔を肴に、一杯やるか。乾杯したい気持ちだな、まったく。よし、『小夜子に乾杯だ!』」
 まばたきをする星々を押しのけるように浮かんでいる月に向かって、グラスをささげた。
充足感に満ちた表情を浮かべて、「間髪を入れずに、だな。小夜子の気持ちがぐらつかぬ内に、一気呵成にいくぞ」と、だれに言うともなく声に出した。
「いいか、武蔵。浮気がだめだとは言わないけれども、小夜子を泣かすことだけはいかんぞ」
 窓にうつる己に――言い聞かせるがごときの武蔵――そんなおのれに酔った。
 薄雲が月を陰らせていく。
 まばたいていた星々がその動きをとめた、と武蔵の目にうつった。しかしすぐにまた、輝きを取りもどした星々。それが武蔵たちの行く末を暗示したのかどうか、どう考えるべきか。

(二百一)

「う、うーん。タケゾー、タケゾー!」
 となりに居たはずの武蔵がいないことに気付き、声を大きくして呼んだ、叫んだ。正三につづいて武蔵までもが小夜子の元をはなれた? 一瞬間、不安な影がよぎった。嬉々として正三との再会を受けいれた小夜子だったが、武蔵の気持ちを思うことはなかった。いや、かすめた、たしかに、いいの?≠ニ思った。しかしすぐに、だって、タケゾーのお膳立てなのよ。あたしはひと言も言ってない!≠ニ、おのれを擁護する。武蔵にたいしては突っ慳貪に接しているとは思っている。ただしかしアナスターシアを失ってからさらにひどくしていたのでは、と不安になっていた。
だからわたしを追い出す口実として、正三との再会を画したのでは? と、いま思えたのだ。
「おう!」と、声が聞こえた。安堵の気持ちにつつまれたものの、姿がみえない。部屋をぐるりと見回しても、武蔵がいない。空耳かと思ってしまう。いつもいつも小夜子のそばにいてくれる武蔵なのだ。「あっ」、「えっ」、「うっ」、とひと声を発しただけで「どうした」と駆けつけてくれる。千勢が笑っている。いや笑っていた。「ほんと。旦那さまは、小夜子さま中心なんですね」と、うらやましがる。
 庭先で手にグラスを持って小夜子をふりかえる武蔵が目にはいったとき、小夜子の胸をぐっと締めつけるものがあった。幼いこどもがお留守番をしていて、母親の帰りを今かいまかと待っている。そして「ただいまあ!」の声に飛びだしていく。そんな小夜子だった。
「小夜子。どうだ、中華そばを食べに行かんか? 若いもんたちが食べたらしいんだが、美味いと言ってる」。とつぜんに言う。
「行く、行く。おいしいもの、食べたい。お腹へっちゃった。お昼、食べそこねちゃったの。着替えてくるね」。すぐにも動かなければ、この今という瞬間がどこかに行ってしまう、そんな気持ちになった。

 小間物を並べている店の横に、間口が二間ほどで奥行きが五間ほどの縦長な小屋のようなものがあった。元々は倉庫として使っていたのだが、小間物店の次男がはじめたと、武蔵は聞いている。三人組のひとりである山田が常連になっている食堂だ。土間を利用しての店の造りに、顔をのぞかせただけできびすを返す客もいる。
「店はきたないですが、味は絶品ですから」
 自慢げに話す山田の顔が、新規の客を獲得したとき以上に輝いている。「たしかに美味かったです」。服部が同調し、竹田もまたうなずいた。
「かどや」と白い布に手書きされた暖簾をくぐると、壁際にピッタリとテーブルとは名ばかりの戸板を用いたテーブルが置いてある。背もたれのない丸椅子だけが汚れのない、新調したもののようだった。壁には、「中華そば」と書かれた黄色ばんだ一枚の紙が貼ってある。他にはなにもない。「中華そばだけなんで」。奥から声がとどいた。そういえば、軒先の上にかけてある看板には、「中華そばの店」とあった。

「タケゾー、ここ大丈夫なの?」。不安気な顔つきの小夜子に、「大丈夫って、なにがだ?」と、素知らぬ顔で聞きかえした。ぷーっと頬をふくらます小夜子に、指でほほを押した。
「心配するな、大丈夫さ。それなりに衛生面には気をつかってるさ。それより、案外こういった小汚い店の料理が美味いというぞ。さあさあ、すわれすわれ」
「なんだか嬉しそうね、タケゾー」
「ああ、嬉しいさ。会社をおこしたときは、もっと汚い場所だった。訳のわからん肉やら、バクダンなんて名前のアルコールを飲んだりしたんだ。懐かしいぞ、ほんとに」

 小夜子には分からない。
 ホテル内の洒落たレストランでの食事、落ち着いた雰囲気のバーでの飲酒、成金とはいえ上流階級のそれらに慣れきってしまった小夜子だ。というよりは、極貧生活から一気に上流生活へジャンプしてしまった小夜子だ。庶民の生活をまるで知らない小夜子だ。ただ、知りたくもないし、知るつもりもない。

(二百二)

 しかし嬉々とした表情を見せる武蔵――はじめて見る屈託のない笑顔の武蔵に、小夜子もまた嬉しくなってくる。ワイシャツの袖をまくり上げて、フーフーと熱い中華そばをかけ込んでいる。
「中華そばってのはな、上品に食べたんじゃ、ちっともうまくないぞ。こうやって、ズーズーと吸い込むんだ。このスープが飛び散るくらいに勢いよくだ。小夜子もやってみろ、くせになるぞ」
 一本二本を口に入れていたのでは、おいしいとは感じない。不満げな表情を見せている小夜子に、武蔵の指南が飛んだ。周りを見ても、皆がみなズーズーと音を立てている。いかにもうまそうに食べる武蔵に、額に汗をふきだしながら食べる武蔵に、憎らしささえ感じてくる。
「どうした? 食べさせてやろうか、小夜子」。とつぜんに小夜子のとなりに移ってきた。
「いいわよ、食べるから」。もう子供じゃないの! と言わぬばかりに、勢いよく吸い込んだ。口の中にひろがるはじめての味、そして食感。スープが鼻に飛びついた。熱さを感じるものの、飛び込んでくる香りがうまさを引き立てる。
「おいしい!」。思わず口にでた。
「そうだろう、うまいだろう。日本人というのは、ほんとに天才だぞ」
 まるで自分が料理したかのごとくに、武蔵の講釈がつづく。
「よその国の料理だろうとなんだろうと、こうやって日本人好みに作り変えてしまうんだからな」
 ひと口ふたくちと進むにつれて、小夜子にも勢いが出てきた。
「なあ、小夜子。ビーフステーキもいいが、こういうのもいいだろう」
 すこしだまっててと言わんばかりに、小夜子が武蔵をにらみつける。おつにすませて食べることなく、ズーズーとかけこんでいく。そんな小夜子の食べっぷりを見て、ひとり悦に入る武蔵だ。

キャバレーでの小夜子とはまるで違う女になったな。いや、鼻っ柱の強さだけは変わらないか
 一年と経たぬのに、小夜子の変貌ぶりは武蔵の想像を超えるものだった。もう田舎娘といった雰囲気はなく、かといってこの都会にとけこんでしまってもいない。
「新しい女になるの!」。なにかといえば口にする。男にかしづく女にはなりたくない、自立した女になりたい。そしてそのためにもと、好奇心をかくしたりしない。そういえばこの店に女性はいない。暖簾をくぐったときには「なんだ、この女」「女の来るところじゃねえぞ」と蔑視された。それでも、逆にキッとにらみ返していた。
自分をごまかしたり、飾ったりすることはなくなったか。アナスターシアだったか、あのモデルのおかげかな
そのモデルがこの世から居なくなったことで、自分を失いかけたが、もう大丈夫なのか、小夜子
ほんとに、俺の宝物になってくれるか……。精いっぱいのことはしてやる。おじいさんも含めて、丸抱えしてやるからな
 いま改めて、小夜子に誓う武蔵だった。